WILLナビDUALアーカイブ 私立中高一貫校

伝統あるグローバル教育がさらに進化し
多様化の時代を生き抜く真の力を養う

八雲学園中学校高等学校

2018年に男子生徒の受け入れが始まり、女子校から共学校へ大きく変革した八雲学園中学校高等学校。この春、共学1期生が高3に進級し6学年すべて共学化が完了。あらためて変革のスタートラインに立った。先駆的なグローバル教育を中心に、同校がどのように進化しているのか、校長の近藤彰郎先生に伺った。

近藤 彰郎 校長先生

創立の精神を受け継いだ、伝統の海外研修

「6学年すべてに男女生徒がそろい、すっかり共学校の雰囲気になりました」と、校長の近藤彰郎先生は笑顔で語る。1938年に八雲高等女学校として創立された八雲学園中学校高等学校。今春、女子校として入学した最後の学年を送り出し、共学6期生を新入生として迎え入れたことで、あらためて新しいスタートを切った形だ。「2018年に男子の教育をスタートするに当たって、日本の武士道精神と英国のナイト(騎士)の精神を併せ持つ人物を育てることを目標に掲げました。男女が互いに力を合わせつつ、困っている人がいればさっと手を差し伸べる──。今、校内の様子を見ていると、男子生徒にこうした気風は確実に定着していると感じます」

同校の教育の最大の特色は、地に足のついたグローバル教育だ。これは、創立当初からの長い伝統に裏打ちされたもの。というのも、創立者であり初代校長の近藤敏男先生がアメリカでビジネスを起こし、帰国後「世界を相手にするには、国際的な視野に立った教育が欠かせない」という強い意志が教育の原点になっているため。そんな思いを象徴するプログラムが、中3全員が参加する「2週間海外研修」だ。アメリカ西海岸のサンタバーバラに同校が所有する研修センター「八雲レジデンス」を拠点した語学研修で、滞在中はUCSB(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)や、現地の名門校であり、姉妹校でもあるケイトスクールで英語を学ぶほか、修学旅行を兼ねて観光や文化も体験する。

「本校ではすでに30年近く続いているプログラムで、中学3年間で身につけた英語力を試し、高校で飛躍するための絶好の機会になっています」。そう熱く語る近藤先生自身が、他ならぬ本プログラムを発足させた立役者だ。1990年にサンタバーバラの大自然の中に5万坪もの広大な土地を購入するところから始まり、現地の教育関係者との深いつながりの構築を経て、独自のプログラムを組み立てていったという。あらゆる生徒がしっかり学習効果を得られるよう、習熟度別に1クラスを10名程度に細分化するなど、他にはないきめ細かい内容となっている。「授業だけでなく、レストランでオーダーしたり、キャンパスで大学生と会話したり、現地の空気を全身で体験することが刺激となり、学習のモチベーションが高まります。また、アメリカの人たちに心から迎え入れられる体験を通じて、本校が大事にする『ホスピタリティー精神の大切さ』を、身をもって感じる機会にもなっています」

同校が所有する研修センター「八雲レジデンス」を拠点した中3全員が参加する「2週間海外研修」

全教職員が力を合わせて、6年間の成長を見守っていく

2020年からのコロナ禍では海外研修の中止や縮小も余儀なくされたが、2022年度から徐々に復活。特に海外研修は怒濤のラッシュを精力的にこなした。中3は2年ぶりに通常通りのプログラムを実施したほか、中3時点の海外研修が中止になった高1・高2が夏休みを利用してそれぞれ2週間ずつ渡米。これに加えて、昨年はバスケットボール部のレギュラーメンバーを対象にした海外研修も行ったという。「インターハイを勝ち進んだために、修学旅行に行けなかった生徒たちを『ぜひ行かせてあげたい』という先生方の強い思いで実現したものです。このように、教職員が労力をしっかりかけることが、本校の教育の本質だと思っています」と近藤先生は力を込める。

「2週間海外研修」はもちろん、高1の希望者を対象にした3カ月の留学を含む「9カ月プログラム」でも、教員が現地に同行し、生徒たちの学びにとことん寄り添うのが同校のスタイルだ。受け入れ先に丸投げするのではなく、責任を持って学びの質を高めていくことを重視しているという。

そんな同校らしい取り組みの一つに「チューター制度」がある。担任以外の教員が生徒一人ひとりのチューター(学習アドバイザー)となって学習や生活を支援するものだ。中1生の担当は学校が決めるが、中2生からは生徒が希望の教員を指名できる。「チューターは自身の携帯番号を生徒や家族に伝えています。生徒は悩んだ時はいつでも連絡できます。頼れるお兄さん、お姉さんのような存在です」

教育のあらゆる場面で教職員が総力を挙げて生徒に向き合っていくことの背景には、「人間的成長のサポートこそが、中高一貫校の大きな役割」という信念がある。「中1生はまだまだ子どもです。6年間で彼らをしっかりと大人に育てるためには、きめ細かく面倒を見ていくことが大事です。知識を与える役割がどんどんAIなどに置き換わる世の中になっても、人を育てるうえで人間の教員が果たす役割はますます大きくなるのではないでしょうか」

担任以外の教員が生徒一人ひとりに寄り添って学習面を中心に、日常生活や不安などの相談役もなる「チューター制度」

新時代を生き抜くための、テクノロジーや多様な価値観に触れる

グローバル教育とともに同校が重視するのが文化体験だ。「月に1回は、心から感動する日を設けよう」と、芸術鑑賞などの行事も活発に行っている。また、世界50か国の私立学校230校が参加する国際私立学校連盟「ラウンドスクエア」のネットワークを活用し、イエール大学など海外の名門校から学生を招いた国際交流も行っている。「私は『グローバルスタンダード』なんてないと思っているんです。世界の国々にさまざまな歴史あり、文化あり、人種があり、宗教があり……。グローバル化時代を生きるためには、一つの正解を求めるより、多様な価値観を見聞することが大事。私たちもできるだけその手助けをしたいと思っています」

そのため、新しいテクノロジーの活用にも積極的だ。「『自分で考える力を育むためにはAIのような技術は使わせないほうがいい』という意見も耳にしますが、私はそうは思いません。人間は、先人が蓄積した知識や技術を土台に進化してきたのですから」と近藤先生。ただし、技術活用と同時に、ルールやリテラシー教育も重視しているという。

最後に近藤先生は、「中高6年間という成長期に、自分の持てる力を十分に発揮するためにも、偏差値などの数字だけでなく、本当にしたいことができる環境であるかどうかをしっかり見極めて、後悔のない学校選択をしてほしいと思っています」と、受験生にメッセージを送った。

アメリカの名門大学Yale大学の学生で編成されたアカペラコーラスグループが
毎年2日間にわたって来校し、本校の生徒たちと文化交流を行う