ハーバード大とMITを訪問 世界の広さに価値観が変わる
「研修を受ける前とは全く世界観が変わりました。大学受験が人生のゴールではない。ただ名のある大学を目指すのではなく、明確な目指す理由がなければならないことがわかりました」
「短い期間でこんなに自分の価値観や考え方が変わったのは初めてです。いろいろな刺激があったので、一言でまとめてしまうのはもったいないのですが、あえて共通点をまとめるなら、情熱を持つことのすごさを学んだと思っています」
これは、10日間のボストン研修に参加した生徒(22名)の感想文からの抜粋だ。現地では、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)の教授や学生など様々な人と出会い、語り合った。そうした人々がみな情熱を持って研究や仕事に取組んでいる姿を目の当たりにし、生徒たちの心には、それまで自分がいた狭い世界にこもったままでは気づけなかった大切なことが芽生えたのだ。
このボストン研修の主な内容は、上記両大学での講義体験や研究所訪問。さらにこの両大学で実施する「GEMセッション」では、生徒4~5人が1グループとなり、各グループには現地の大学生がファシリテーターとして1人ずつ入ってグループワークやディスカッションを行う。たとえば、美術館へ行って好きな作品を一つ選んで写真を撮り、それについて各自がみんなの前でプレゼンテーションする。ファシリテーターからは、「なぜ、その作品を選んだの?」「なぜ、そう思う?」と、どんどん質問されるので、自分の考えをしっかり持ち、論理的に説明しなければならない。また、ボストン近郊の高校も訪ね、現地の生徒たちと交流。そして最後にニューヨークへ移動し、国際連合本部とコロンビア大学を現地の職員や学生の方の案内で見学した。
このボストン研修に同行した金沢雅人先生は、豊島岡女子学園のグローバル教育を取りまとめる責任者。「日本では見せない生徒たちの積極性に驚きました」と、現地での様子を振り返る。現地では質問を積極的にしていたのはもちろんのこと、「夜は宿泊先のホステルで、その日の振り返りを発表し合ったのですが、そこでも生徒たちは、気づきや気持ちの変化などについて活発に発言していました」
「こうなりたい」というロールモデルと出会う
同校では近年、海外大学への進学を希望する生徒が出始めており、海外大学に進学した卒業生による講演会も行われるようになった。しかし、漠然とした興味で終わってしまうケースもある。実際に海外大学進学を実現するには、まず生徒自身が大学を見に行き、その雰囲気を肌で感じることが大切だ。そう考えた金沢先生は2017年にアイビーリーグを視察。それが今回のボストン研修導入のきっかけとなった。この研修の狙いについて、金沢先生は次のように説明する。
「“英語を学ぶ”研修ではなく、“英語で学ぶ”ハイレベルなアカデミック体験を生徒にさせたい。さらに、『自分もこんなふうになりたい』と生徒が思うようなロールモデルと出会う機会を作るのが狙いです。そのため現地では、女性の教授や講師や学生、そして現地で働く日本人女性など、とくに女性で活躍している人をゲストスピーカーとして招きました」
実施前には、学校内で事前研修も行った。その内容は、いわゆる英語研修ではなく、グループに分かれ、そこへファシリテーターが1人ずつ入って、英語でディスカッションやプレゼンテーションをするというもの。受け身にならず、積極的に自分の考えを話す姿勢を身につけるのが目的だ。さらに別の日には、日本人講師を招いて、人と話をするときのマナーなどについての講習も行った。
海外研修参加者の経験談を後輩在校生が聞く機会も
今回、参加した生徒は必ずしも全員が海外大学の志望者ではなかったが、研修による意識の変化は大きく、帰国後すでに海外大学進学を視野に入れて考える生徒も出てきたり、海外の高校への留学を決めた生徒もいるという。
また、同校には、従来から、中3~高2の希望者を対象とする他の海外研修(ニュージーランド、カナダ、イギリス)や、高1~高2の希望者から選抜するニュージーランド3カ月留学といった国際交流のプログラムがあり、これらの経験者が在校生に経験談を聞かせたり、ディスカッションをしたりする行事が一昨年から始まっている。今後は、ボストン研修の参加者もこうした機会に体験談を披露し、他の在校生に海外へ目を向けるきっかけを与えるといった波及効果が期待できそうだ。
国内で行う国際交流も含め多彩なグローバル教育を展開
同校には国内で行う国際交流プログラムもあり、それらも希望者向けに提供している。まず中2の夏休みには、イギリスの日常生活を英語で体験する「ブリティッシュヒルズ異文化体験研修(福島県)」が2泊3日である。さらに、高1と高2の夏休みには学校内で5日間にわたって行う「エンパワーメントプログラム」を実施。このプログラムでは、生徒5~6人につき、米国トップ大学の学生や都内大学院在学の留学生が1人配置され、ディスカッションやプレゼンテーションを行う。
英語の授業では、中2からスピーチの作成に取り組み、英会話の授業ではプレゼンテーションも行う。また、中3と高1の高入生では、ネイティブスピーカーとのオンライン英会話を授業に導入。高1では、同校教員のオリジナル・テキストを使った「ディベート英語」という授業があり、学年末にはクラス対抗の英語ディベート大会も実施している。
英語4技能(リスニング、スピーキング、リーディング、ライティング)をバランス良く定着させ、大学生や社会人になっても使える本物の英語力を身につけるのが同校の英語教育の方針だが、「中学低学年の段階では、インプットに重きを置かないとアウトプットのしようがないので、〝昔ながら〟といっても過言ではないくらい徹底的にインプットを行います」と、金沢先生。「本校の生徒が目指すような高いレベルでコミュニケーションをとるには、圧倒的な基礎力があることが前提です」
以上のようなグローバル教育プログラムだけでなく、与えられた製作課題にチームで取り組むモノづくりプロジェクトや、教科の枠を超えた課題や生徒自身が設定した課題を探究する「Academic Day」など、様々な取り組みを行っている同校。2018年度からは、文部科学省からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定も受けた。
最後に、こうした様々な企画が生まれる背景について、入試広報部長の岸本行生先生は次のような同校の気風を教えてくれた。
「本校には、教員が生徒のためになる企画を出し合い、それが実現しやすい気風があります。何かに興味を持った生徒がいたら、それを応援するのが豊島岡です」