英語での発言を軸にした3日間集中プログラム
英語は現在、4技能を万遍なく高めることが求められており、2020年の大学入試改革でも、4技能のスコアで評価する英語外部試験が活用されることになっている。とはいえ、通常の英語の授業のなかでスピーキング力を鍛えるのは困難なことも多い。江戸川女子中学でも毎週1回、ネイティブ講師による英会話の授業を行っているが、クラスの人数を考えると、生徒一人あたりの発言数や時間には限界があるのも確かだ。
そのため、4年前からスピーキング力の強化のために「イングリッシュ・スピークアウト・プログラム」を導入している。クラスを10人ほどのグループに分け、各グループに1人ずつネイティブ講師がついて、朝から夕方まで英語漬けの時間を過ごすことで、英語を話すことへの抵抗感をなくすことを狙ったものだ。
「校外施設を利用したこともありますが、移動や宿泊に伴う時間的ロスや費用負担を考え、校内で同様の効果のあるプログラムを展開することにしました」と、英語科の加瀬奈央先生はその背景を語る。
1グループが1つの教室を使うため、授業がある期間に実施するのはむずかしい。そこで、学年末の3月に3日間集中プログラムの形で行うことにした。全学年だと45グループにもなり、とても教室が足りないため、中学1・2年と3年で、日にちをずらして実施している。
プログラムは、講師の出身国についての「異文化理解」から始まり、「スピーキングトレーニング」や「リスニング&発音」「プレゼンテーション」など、様々な学びで構成されている。たとえば、中1は英語の歌のディクテーションだが、中2は講師の講話のディクテーションになり、中3は講師の出身国と日本の教育制度や学校システムの違いに関するディスカッションになるなど、レベルも進化させている。教室での学びだけでなく、体を使ったゲームなどのアクティビティなども用意され、ランチも講師と一緒にとるなど、丸一日の英語生活を楽しみながら過ごせるように工夫されている。
「講師の出身国は多様で、途中で交代しますから、それぞれの国の文化や習慣に関する理解を深められますし、母国語の違いによる英語の癖なども分かります。英語の発音が微妙に違っても通じる英語を話せばいいんだという、現実の国際社会でのコミュニケーションに近い環境になっていると思います」(加瀬先生)。
プログラムの最終日には、全員がスピーチを行う。テーマは、中1が「自分のことについて話してみよう」、中2が「外国人に紹介したい日本文化」、中3が「訪日を検討している外国人に日本の魅力を伝えよう」となっており、プログラムはそこに向けた準備という形になる。
スピーチは、全員がクラスの中で行い、そこで選抜された優秀者が、保護者も参加するホールで、全学年を前に行うことになる。最後に全員に修了証が贈呈されて、プログラムの幕が閉じる。
「中1の生徒は、自分の英語が本当に外国人に通じるのかという不安があるようですが、このプログラムを終える頃には、ほとんどの生徒が英語でのコミュニケーションを楽しむようになっています。もちろん、たった3日間でスピーキング力が飛躍的に伸びるわけではありませんが、英語を学ぶモチベーションを3年間継続して高めていくには、効果の高いプログラムだと思っています」(加瀬先生)
マンツーマンで学ぶオンライン英会話
「イングリッシュ・スピークアウト・プログラム」を通して、少人数での英語のコミュニケーションに慣れた生徒は、高校に進学すると、マンツーマン方式による「オンライン英会話」を受講することになる。毎週1回、タブレットを使ってインターネットでフィリピンと結び、現地のインストラクターと1対1で英会話を行うもので、週に3時間ある「コミュニケーション英語」のうち、1時間を「オンライン英会話」に当てている。
英会話のテーマは、「Let’s Speak」というオンライン教科書に基づいている。インストラクターの求めに応じて音読練習をしたり、トピックに関する質問に答えたり、自分の意見を述べたりしながら、英会話を楽しむ授業になっている。実際の英会話は25分間で、トピックの内容を掘り下げたり、英単語の意味を調べたりする事前学習の時間を設けている。
「会話のなかで英単語の意味を英語で説明するようなこともあるため、英英辞典を使って準備をしてくる生徒が増えてきました」(加瀬先生)
インストラクターとの英会話が終わると、タブレットで感想を打ち込み、インストラクターからもコメントか返ってくる。それを振り返りシートに記入して、反省点を再認識した上で、次週の英会話の時間につなげていく。単に英会話を楽しんで終わるのではなく、ライティングやリーディングの能力を鍛える内容も含んだ、総合的な英語の授業になっている。
「中学段階でスピーキングに慣れたとはいえ、最初はやはり緊張しているようで、何をどう話していいか分からないようです。しかし、1カ月もするとほとんどの生徒が英会話の時間を楽しみにするようになります」(加瀬先生)
「オンライン英会話」は高校2年まで継続するが、中学から高校につながるこれらの新しい英語教育は、目覚ましい教育成果をあげている。現在の高2生は、中1から継続的に英語の新プログラムを受講してきた学年だが、彼らが高1の終わりに受験した英語外部試験GTECのスピーキングスコアは、以前の学年と比べて25点以上も上昇し、全体としてグレードが1ランク上昇しているからだ。中学でも英検取得率が伸びており、スピーキング力を軸にした英語教育の有効性は極めて高いといえよう。
江戸川女子の生徒たちは、こうして4技能を鍛え、海外修学旅行でのホームステイに備えると同時に、新しい大学入試にも果敢に挑戦していくことになる。