定員の4割を占める男子が入学
共学化1年目の2018年度は36名の男子が入学したが、今年度の入学者はそれを上回る59名。新入生の4割に相当し、もはや男子がいるのが当たり前の状況になった。近藤彰郎校長は「男子は勉強ができるだけではだめなのです。勉強ができてステータスを持った大人の男性による卑劣な事件が後を絶たない状況に危機感を覚え、幼い頃から女子と男子を一緒に育てることで、バランスのとれた人間力を身につける必要があるとずっと考えてきました。だからこそ共学化にあたっては、女子はもちろん、人間に対してやさしく、弱いものを助けるナイト(騎士)の精神を持った男子を育てたいと訴えてきました」と振り返る。その成果があらわれた形になった。
初めての男子を迎えるにあたって、この1年間はきめ細かな配慮に心を砕いてきた。かつてと違い、現在は男女ともに手をかけ、引っ張り上げる教育でなければ上手くいかない。世の中全体が、少しずつステップを踏んで自立を促していく教育が求められているからだ。そのため、カリキュラムも2年間ずつの3ステージに分けて、基礎から応用へと積み上げていく形を鮮明にした。「最も大切なのは第1ステージの2年間です。小学校で十分に規律を教えられていないこともあるため、入学直後に頭ごなしに規律を守らせようと思ってもできません。子どもたちが気づくのを我慢強く待ち、諭していくことで、気づきを待つ教育に徹しています」(近藤校長)
学校の環境・雰囲気を保つことが大切
こうした指導が功を奏するためには、学校が楽しい場所でなくてはならない。そのため、月に1度は、「感動体験」を味わえる機会を用意している。入学直後の新入生歓迎会で教員が出し物を披露するほか、武者人形を飾って端午の節句を祝ったり、サッカー大会やレシテーションコンテストを開催したり、合唱コンクール、体育祭、文化祭…と毎月多彩な学校行事を盛り込んでいる。
そのため、共学化1年目の新入生全員に対するアンケートでは、学校生活について「とても楽しい」「まあ楽しい」と答えた生徒があわせて87%もいた。「英語教育と多彩な行事に魅力を感じる生徒が多く、本校がコンセプトとして打ち出していることが、受け入れられていることが分かります」(近藤校長)
中3以上は全員が女子だが、この環境も男子の教育に好影響を与えている。面倒見の良さが学校全体にあふれているからだ。とくに入学から1カ月半くらいは、高3の女子が新入生の教育係として各クラスに配置されている。学校生活の様々な決まりごとなどを教えていくわけだが、「やさしいお姉さん」たちによって、新入生はすぐに学校生活に溶け込んでいくことができる。「本校には粗野な雰囲気がまったくありませんから、本校の男子も決して粗野な人にはならないはずです」と近藤校長は胸を張る。こうした学校の環境・雰囲気のなかで、グローバルリーダーとしての素養を積み重ねていくことになる。
実際に使われている英語を教える
グローバルリーダーに必要な資質の1つが、世界の人とコミュニケーションがとれる英語力だ。八雲学園では、従来からネイティブ教員を交えた英語教育に力を入れている。英語関連行事も数多く開催しているほか、中3全員が、アメリカ・カリフォルニア州サンタバーバラに設立した研修センター「八雲レジデンス」で2週間の海外研修を行っている。高1になると、3か月間のアメリカ留学に加えて事前学習と事後学習を含めた「9カ月プログラム」を実施。カリフォルニア大学サンタバーバラ校で授業を受け、現地での交流も深めている。参加した生徒は外国語能力の参照標準「CEFR(セファール)」で全米トップレベルの大学が求めるB2レベルの力をつけるなど、成果を挙げている。
このような充実した教育プログラムに加えて、今年からは学校での英語教育の見直しも進めている。キーワードは「実際に使われている英語」だ。「文法的には正しくても、実際には誰もそんな言い方はしないという文章があります。言葉は生き物で常に変化していますから、英語も現代の人々が普通に使っている表現を学ばなくてはなりません」との近藤校長の問題意識から、英語教育のスペシャリストをアメリカから招聘し、同校の英語科教員たちへの指導をスタートさせる。英語の全教員が「実際に使われている英語」を身につけることで、間接的に生徒の英語コミュニケーション力を高めていこうというわけだ。
しかも、同校は50カ国180校のプライベートスクールが加盟する世界的な学校組織「ラウンドスクエア」に加盟している。毎年、複数の加盟校の生徒が来日し、日常の学校生活のなかで異文化交流ができる機会も多い。イェール大学との交流もずっと続いており、英語教育だけでなく、世界中の同年代の若者との交流ができる環境が整っている。
手厚い指導に加えICT教育も充実
八雲学園には、独自のチューター(学習アドバイザー)制度があり、日々の学習活動を手厚く支援している。チューターは担任以外の講師を含めた全教員が務め、生徒1人に必ず1人チューターがつくことになっている。チューターは、日常生活の悩み相談から進路相談まで幅広く対応するが、その立場は常に「生徒の側に立つ」こと。電話やメールアドレスも交換し、必要なときに素早く問題を解決する窓口の役目も担っている。
ICT教育には早くから取り組んできた。生徒は1人1台タブレットを持ち、教科学習で活用している。最近は、2020年以降の大学入試や新学習指導要領への対応も考え、ICTを利用したプレゼンテーションの工夫に力を入れている。「一口にプレゼンテーションといっても、教科によって内容や方向性が異なるのは当然です。現在、試行錯誤しながら模索を続けており、いずれは八雲スタイルのプレゼンテーション教育を確立させていきたいと考えています」(近藤校長)
進路指導にも大きな特長がある。充実した学校生活を送った上で生徒が熟考した希望進路を尊重し、その実現を最大限支援することだ。強豪クラブであっても、練習優先ではなく学校行事を優先させるのは、学校生活こそが中高生の基本だとの考えに基づいているからだ。だからこそ「大学卒業後の就職にも大きな実績をあげています。そこに価値をおいていないからです。もちろん生徒が望めば、できるかぎりの支援をしますが、単に数字だけを追うことはしません」と近藤校長。卒業生が幅広い分野で活躍していることに誇りをもっている。
新しい進路の方向性も視野に入れている。ラウンドスクエア加盟校でもあるカリフォルニアにある全米トップクラスのケイトスクールとの長年の交流により、アメリカの大学に関する進学情報が共有できる立場にある。まだ準備を進めている段階だが、今後は八雲学園から直接アメリカの大学を目指す生徒が出てくる可能性は十分にある。