WILLナビDUALアーカイブ 私立中高一貫校

答えを導く「過程」を体験
持っている知識を活用して探究心を育む

豊島岡女子学園中学校・高等学校

都内有数の女子進学校である豊島岡女子学園中学校・高等学校では、「志力をもって未来を創る女性」の育成をめざし、課題探究型の学びに力を入れている。その一つが、チームでモノづくりに挑戦する「T-STEAM:Jr.」だ。学年行事として行うのは今回で3回目。過去には「厚紙1枚を使って丈夫な橋を作ろう!」「ホバークラフトを作ろう」など、どれも探究心をくすぐるミッションばかりでした。ここでは、5月26日に中1・中2合同で行われた様子をリポートすると同時に、取り組みの狙いなどについて紹介する。

遠くに飛ばす方法とは? 失敗を重ねて知る「学ぶ喜び」

中学1年担任 大塩 涼介 先生(左)と中学2年担任 藤野 優佳 先生

「T-STEAM:Jr.」とは、与えられたミッションにチームで挑戦する探究型学習。モノづくりを通して、自分たちが持つ知識や自由な発想力を活用しながら、学ぶ喜びを感じてもらうことを目的とする。このプロジェクトを担当する藤野優佳先生(中学2年担任)は、「普段の授業では、正解をいかに速く導き出すかを教えていますが、実際のところ、答えにたどり着くには試行錯誤が不可欠です。今回のプロジェクトを通して、モノづくりに対する喜びや楽しみ、簡単には完成しない困難さを肌で感じ、モノづくりの過程を経験してほしい」と話す。

今回の「T-STEAM:Jr.」は、新型コロナウイルス感染症対策のため、2日間に分けて開催された。1日目の5月26日は、全体の半分の中1生・中2生3クラスずつ計6クラスで実施された。

試行錯誤の連続 知識のフル活用で工夫を凝らす

各チームアイデアを出し合いながらオリジナルの飛翔体を製作

今回のミッションは、「コップを使用してゴム動力の飛翔体をつくる」こと。このミッションは、開催当日の朝に初めて生徒に伝えられる。1チームの人数は4~5人。限られた条件の下、S字フックや輪ゴム、紙コップ、プラスチックコップ、消しゴムなど、与えられた材料のみを使用して飛翔体を製作し、チームごとに飛距離を競う。同プロジェクトを担当する大塩涼介先生(中学1年担任)は、「提示した条件さえ守れば、どのようなものをつくるかは自由。普段はいろいろと制限しがちですが、このような機会には生徒の無限の発想を引き出したいと思います。われわれ教員も、ヒントを出し過ぎないよう心がけています」と、あくまで生徒主体のプロジェクトだということを重んじている。

ルール説明を受けた生徒たちは、昼食までの間、自分たちが持つ知識をフル活用して機体の製作に取り組んだ。試作品を作っては体育館へ移動し、本番と同じ形で飛翔体の発射。生徒たちは何度もそれを繰り返し、より遠くへ飛ばすための最善案をチームで模索した。

製作中の生徒たちの様子を見ると、どのチームも知識を絞り出し、工夫を凝らしている様子だった。先端を細長くとがらせて空気抵抗を減らしたもの、耐久性を上げるためにS字フックを2か所で固定したもの、揚力を利用して高く飛ばすために側面に厚紙で作った羽を取り付けたものなど、それぞれのチームで二つとない飛翔体が作られた。

唯一無二の飛翔体がずらり チームの思いを、いざ発射!

舞台上の発射台から、個性豊かな飛翔体が体育館の中を飛び交った

いよいよコンテスト本番。体育館の舞台に設置された六つの発射台から6チームずつ発射を行う。制限時間は2分で、時間内に1チーム3回まで発射でき、いちばん飛距離の長い結果がチームの記録となる。なお、まっすぐ飛ばすことで50cmがボーナスとして加算されるため、そこもポイントとなる。審査員は各クラスから計8名ずつが選出され、引っ張った機体の最後部が発射台の後端から出ていないかを確認し、舞台下の基準点から着地点までの距離を計測する。順番が回ってきたチームは、てきぱきと動きながら、次々と飛翔体を発射。審査員の正確かつ素早い計測もあり、プロジェクトはスムーズに進行していった。なかには客席まで飛翔体を飛ばしたチームもあり、大きな放物線が描かれるたびに体育館全体が歓喜に包まれた。

コンテスト終了後、1日目で飛距離が上位だったチームに話を聞いた。まず、中1生でトップの成績だったチーム。記録は14m18cmだった。「まさか1位になれるなんて思ってもなかったです」と、みんな笑顔を浮かべた。「フラミンゴ3号」と名づけられた飛翔体の特徴は、内側に敷き詰められたみじん切りにした消しゴムだ。重さを出しつつ、本体のバランスも考慮してある。また、なるべくゴムを伸ばせるように、S字フックの位置を下のほうに設置し、本体の長さも短くしたとのこと。同チームは「本番でいちばん良い記録が出せたのでうれしかったです」と話し、「あまり話したことのない人ともチームを組んで、1日でとても仲良くなりました」と、交友関係も深まる良い機会になったようだ。

次に話を聞いたのは、中2生で上位の成績だったチーム。記録は17m35cmだった。まっすぐ飛ばすことを意識して本体を円錐型にし、バランスをとるために3箇所に羽を付けたという。同チームは、「羽を付けた途端に、一気に飛距離が伸びました」と振り返った。また「作った試作品は5〜6個。チーム内で出た意見をすべて試しました」と、たくさんの意見が出て活発な話し合いができたそうだ。

上位の成績だった中1生および中2生のチーム。どのチームも「楽しい時間を過ごせた」と口をそろえる

普段とは違う表情で一人ひとりが活躍 仲間意識も高まる

藤野先生は今回の「T-STEAM:Jr.」について、「教室で行う授業のときとは明らかに生徒たちの表情が違い、各チーム活発に意見を出し合い、楽しみながら自然と学んでいる様子でした。生徒一人ひとりが活躍できる良い機会になったと思います」と振り返った。また、大塩先生は「共同作業を通して、自分のアイデアが採用されたりされなかったり、人間関係やチームワークの構築の面でも成長できたと感じます」と話した。プロジェクトの準備段階では、まず、教員たちで実際にモノづくりを試してみるのだが、それと比較して、生徒たちはミッションを与えてから作業に取りかかるまでの時間が早く、毎回驚かされるそうだ。

さらに、中1生と中2生でも違いが見られた。中1生は、まずは紙に図を描いてみることから始めるチームが大半だったのに対し、昨年モノづくりを経験している中2生は、とりあえず手を動かし製作に取りかかるチームが目立ったとのこと。

「あれこれ考えてしまい手が動かない傾向があるなか、中2生は過去の経験から『やってみないとわからない』という、考えの変化が感じ取れました」(藤野先生)

最後に、受験生へのメッセージとして「本校では、こうした教室を飛び出した学習イベントを今後もどんどん増やしていく予定です。このような取り組みに興味を持った皆さんと、一緒にモノづくりができることを楽しみにしています」と、藤野先生は話した。

そして、大塩先生は「学習とは、鉛筆を握って机に向かうだけでなく、はさみや紙など、さまざまな物を使って深めていくことだと感じます。『学ぶこと』を広く捉えて、与えられた課題を楽しむ姿勢を忘れないで入学してくれると嬉しいです」と語った。

ほかのチームの好記録に拍手を送る生徒たち。大きな記録が出るたびに体育館全体が歓喜に包まれた