WILLナビDUALアーカイブ 私立中高一貫校

「聖書・国際・園芸」の三つの柱で
生徒たちの自発的な学習意欲を後押し

恵泉女学園中学・高等学校

恵泉女学園中学・高等学校は、プロテスタントの信仰を教育の基盤とした、中高一貫の女子校だ。1929年の創立以来、「聖書・国際・園芸」を教育の柱に、主体性・多様性・協働性を兼ね備えた女性の育成に力を入れている。独自の園芸教育や国際交流の取り組み、特別講座「S-park」の狙いについて、校長の本山早苗先生と、
英語科で国際交流主任の飯田絢子先生に話を聞いた。

本格的な園芸教育を実施 命の尊さや協働の楽しさを学ぶ

本山 早苗 校長

創立以来、恵泉女学園中学・高等学校では、「聖書・国際・園芸」を教育の柱とした女子教育を実践している。この三つの柱には、一見、共通点がないように思われるが、それぞれの根底には、しっかりとキリスト教の精神が流れている。「大切にしているのは、自分や他者を尊重し、命あるものすべてを慈しむという価値観です。これは本校が行う教育全体に通じるものです」と、校長の本山早苗先生は説明する。

なかでも特長的なのが、園芸教育だろう。同校では、「園芸」の授業を、中1と高1で必修としている。イチゴでジャムを作ったり、小麦でクッキーやスコーンを作ったりと、播種から収穫・加工・調理まで、一連の工程をすべて生徒の手で行うというから驚きだ。

さらに、中2の学年行事「ファームワーク」では、山梨県清里にある牧場に出かけ、牛舎掃除で集めた牛ふんを堆肥にし、校内の畑の肥料に活用するほか、大豆と麹を仕込み、味噌作りにも取り組む。味噌の醸成には1年近くかかるため、完成品は、1学年下の後輩たちが、翌年の「ファームワーク」で“ほうとう作り”に使うのが通例だ。そして、その生徒たちも、次の学年のために味噌を仕込むのである。こうした循環的な学びが、自然への理解や感謝の気持ちを深める貴重な機会となっている。

「生徒たちに学んでほしいのは、私たちは、あらゆる命をいただいて生かされているということ。同時に、労働の達成感や、他者と協働する喜びを味わってもらうのも、本校の園芸教育の狙いです」と本山先生は話す。

これらの体験をきっかけに、都市緑化・醸造・薬学に興味を持つ生徒も多いという。自然の営みを学ぶ園芸教育の一つひとつが、生徒たちの心を耕し、新たな学びへの興味関心を引き出しているのだ。

園芸教育を通じて、植物と同じように、どのような時代をも生き抜く、強くしなやかな心を育てる

オンライン活用でコロナ禍でも 国際交流の機会を複数用意

英語科 国際交流主任 飯田 絢子 先生

もう一つの柱「国際」についても、生徒の視野を広げ、学びへの意欲を喚起するという観点から、きめ細かな取り組みを行っている。同校では、新型コロナウイルスの流行により海外渡航が困難な 昨今、留学の代替プログラムを複数用意している。その一つが「Spring Global Session Program」だ。これは、同校とオーストラリアの提携校をオンラインでつなぐ3日間の“疑似留学”で、中3と高1の希望者を対象に実施。ホストファミリーが現地の様子を紹介したり、日豪の生徒がそれぞれ2~3人ずつの小グループに分かれて会話を行ったりした。英語科の飯田絢子先生は、「先方の協力もあり、生徒たちは、画面越しに現地の雰囲気を味わうことができました。『もっと英語を話せるようになりたい』と意欲を高めた生徒も多く、英語学習の動機付けになったのでは」と、手応えを語る。

例年であれば、UCLAなど、アメリカの有名大学に通う外国人女子大学生を招いて開催される「エンパワーメントプログラム」も、昨年は日本の大学で学ぶ留学生を招く方式に変更して実施された。これは、夏休み中、中3から高2の希望者を対象に行われる5日間のプログラムで、留学生と協力しながら、社会問題に関するディスカッションや、プレゼンテーションを英語で行うというもの。国内にいながら、海外留学のような濃密な体験ができると好評だ。

「留学生が自国のどのようなことに課題解決を望んでいるのか、いかに高い目的意識を持って日本に学びに来ているのかを知り、生徒たちはとても刺激を受けたようです」(本山先生)

さらに、通年の取り組みとして新たに始まったのが、「Keisen Global Spark Program」だ。隔週土曜日に開講されるこの講座は、ビギナークラス(中1・2対象)と、アドバンストクラス(中3~高2対象)に分かれて実施され、カナダの大学生とのオンライン英会話や、外国人ゲストスピーカーを招いてのディスカッションなど、多彩なテーマで展開されている。アドバンストクラスでは、国連が提唱する持続可能な開発目標「SDGs」を題材に議論することもあり、問題を他人事ではなく、当事者意識を持って考え始めることが狙いだ。飯田先生は、「生徒たちが自発的に英語を学びたいと思ってくれるよう、今後もさまざまなテーマでアプローチしていきたいです」と、今後の展望を話した。

なお、紹介した2つのプログラムを含め、同校の国際交流プログラムは、すべて「有志参加」となっている。その理由について、飯田先生は「目的意識の高い生徒に集まってほしいため」と話す。「やる気のある生徒が集まれば、プログラムの内容はより充実します。参加者の感想を聞き、『来年は私も挑戦しよう』と決意する生徒も増えています。目的意識をもって学ぶ生徒が他の生徒の参加を促すというサイクルをつくるためにも、有志のみとしているのです」と語った。

「Keisen Global Spark Program」でエチオピアからの留学生が自分の出身国について
中2の生徒と質疑応答をしている様子

発展的な学びを促す特別講座で 生徒の学習意欲を刺激

英語以外の教科でも、発展的な学びの場を求める生徒たちに向けて、平日の放課後や土曜日、または長期休暇中に、「S-park(スパーク)」と呼ばれる特別講座を実施している。生徒自身の興味や目的に合わせて、学びたい講座を自由に選択できるのが特長だ。

特に人気なのは、「エキサイティング・プログラミング入門」だ。教育プログラミング言語である「Scratch」を学び、オリジナルのゲーム作りに取り組むという本格的な内容で、毎年多くの生徒たちが受講を希望するという。

そのほか、「化学基礎実験講座」や「教科書ではやらない世界史」など、ふだんの授業をフォローする補講的な内容から、興味関心を広げるための発展的な内容まで、生徒たちの幅広いニーズに対応した多彩な講座を取りそろえている。

工夫を凝らしたカリキュラムで、新しい学びに触れる機会を絶えず提供し続けている同校。自発的に「学びたい」と思わせる環境作りが、生徒たちの学習意欲を刺激している。

本山先生は、「本校は、どんなタイプの子であっても、個性を伸ばせる環境が整っています。ぜひ多くのお子さんにチャレンジしていただきたいです」と締めくくった。