おかげさまの「感恩奉仕」をベースにした「気づきの教育」
夘木幸男校長は、「気づきの教育」の柱に、建学の精神「感恩奉仕」があるという。
「予測不能な時代、そこに生きる子どもたちをどう育てていくのか、その中心に建学の精神『感恩奉仕』があります。どんなに機械化が進んでも、人と人が互いに手をたずさえて生きていくのは変わりません。人間が成長していく段階で自分以外の『おかげさま』に気づき、その感謝の思いを、今度は自分が行動する立場で社会のために役立てるよう動き奉仕することが『感恩奉仕』です。それと併せて、創立者・長谷川良信先生による『潜在的仏性を顕在化する学習環境の創造』という言葉が、『気づきの教育』に大きく関わります。子どもたちがもつ潜在的な力を本人に気づかせ、先を見通した社会でどう生きていくか考え、殻をやぶって新たな自分に生まれ変わり、新たな視点でものごとを捉えられる、そういったことへのつなぎとなるのが、『気づきの教育』なのです」(夘木校長)
「気づき」は、日常生活から連鎖的に生まれるものだ。しかし、生徒が気づくのをただ待つのではない。同校には気づきのためのしかけがたくさん用意されている。
「教員だけでなく、家庭、本人と三位一体となった教育観が必要です。ただ、実際に子どもたちが過ごす時間は学校が多いので、授業や部活動、生徒たちが前向きに生活できる原動力になる学校行事を通じて、ふだんの勉強で得た知識がどう活用できるのか、日常から気づく機会をもつように努めています」
グローバル教育で気づく世界の動き
入学して最初のしかけが、コロナ禍で2020年度は中止となった中1と高1対象の宿泊研修「フレッシュマンキャンプ」だ。2021年度は宿泊先や保護者の理解を得たうえで、万全のコロナ対策のもとで実施した。昨年は参加できなかった中2も、プログレスキャンプという名で行った。「ふだんから生徒の笑顔は見ていますが、こんな笑顔があったのだと改めて感じるほどでした。日常と違う環境のなか、仲間とともに過ごすことで、いろいろな人の助けを借りて、自分たちの生活が成り立っていることを考える時間になったことでしょう」と夘木校長は話す。
浄土宗の宗門校として宗教行事もある。4月の「花まつり」をはじめ、年5回ほど行われるが、これらは宗教としての仏教の考え方、またブッダの生涯を通じて、仏教の成り立ちや法然上人の教えを学ぶ機会になっています。
「人として生きるうえで大切なことや人として悩んだときの向き合い方など、自分自身の内面を見つめ直すきっかけにしています。また、授業のはじめと終わりには必ず手を合わせて『よろしくお願いします』『ありがとうございました』と挨拶をします。形式的なことでも、感謝を習慣化することで定着していきます。小さなことですが、こうした積み重ねで精神的柱となる考え方のベースをつくっていくことに仏教校としての特徴があります」(夘木校長)
通常であれば、国際交流も盛んだ。特に中3のアメリカ修学旅行、高2のイギリス修学旅行は多彩な気づきを与える機会だ。「かつては世界のトップ20に名を連ねていた日本企業が今は1社もなく、いわゆるGAFAなど生徒がふだん使っている企業が世界の利潤の多くを得ています。日本企業がかつて誇っていた技術はどうしたのか? そんな質問を実際にできるのがアメリカ修学旅行です。世界を牽引するような企業をシアトルで見学し、世界経済の動向を目の当たりにする取り組みを行っています。また、基本的に宿泊はホームステイで、現地の学校での交流もあるため、各人が英語を使って前に出ていく機会があります」と夘木校長はいう。
一方、高2のイギリス修学旅行では、SDGs先進国ともいえるイギリスで、同年代の若者がどんな取り組みをしているのか意見交換をする。事前事後には、探究学習としてイギリスをテーマに調べ、発表する。クラスの代表者は学年代表として、下級生や保護者の前でのプレゼンテーションを行う。進め方や考え方については、担任がアドバイスもしながら、探究そのものの技法も身につける。この探究学習は、中学3年の卒業研究の延長線上にあり、正解のない課題についても、自分で調べ、まとめ、発表しながら、まわりを納得させるには何が必要なのか、どんな見せ方や発想が求められるのかを自ら学んでいくことができる。
コロナ禍で、国際的な交流が困難な時代だが、今後はリモート交流や来日中の外国人留学生とのディスカッションも取り入れていく予定だ。「著作物で知識を蓄えていくことを前提にしながら、より多くの人と出会うことをしかけていきます。その際、できるだけ遠い地域や国々、つまり海外に住んでいる人から受ける刺激は、より大きなものになるでしょう。新しい発想力や多様性を身につけるための一環としても国際教育をとらえています」と夘木校長は話す。
こうした経験は、長期留学へのきっかけにもなり、特に海外の大学進学も視野に入れたプレミアムクラス(高校)の生徒にとっては、進路決定に大きな影響を及ぼす。
綿密な分析で生徒一人ひとりをサポートする「JKS」とは
一つひとつの行事が「気づきの教育」につながってくることが見えてきた。しかし、それがすべて単純に大学合格実績に結びつくわけではない。生徒の気づきを集約し、進路決定を力強くサポートするのが、同校独自の「JKS(受験校決定サポートシステム)」だ。生徒一人ひとりの希望を踏まえたうえで、模試の結果や科目別データを分析し、大学の入試傾向と合わせてアドバイスをする。どの学校でもやっていると思われるが、その綿密さが群を抜くのは、先の「6年間で伸びる進学校ランキング2021年」が証明する。担任だけでなく、教科担当も情報を共有し、自信をもって進路指導にあたる。ただし、あくまで生徒の希望が第一優先だ。
文武両道にも定評がある。水泳の池江璃花子、長谷川涼香は同校の卒業生だが、続く後輩たちも次のトップアスリートとして結果を出している。水泳部は競泳だけでなく、アーティスティックスイミングでも活躍中だ。近年では特に女子剣道部やバドミントン部、空手道部、ソングリーダー部が好成績を残しているが、文化部でもギター部が2年連続全国大会で優勝、全国高等学校囲碁選抜大会でも優勝者を輩出した。勉強のためにやりたいことを我慢させることはなく、生徒が自分で時間の使い方を考え、活動するようになるしかけももちろんある。
「本校は、生徒の良さを見つけ出せるようどの教員も目を配っています。『あれができない』『これができない』という悪い面を見るのではなく、できたことを褒める。ですから生徒には、勉強でも部活動でも自分が得意なものを見つけてほしいと思っています。みんなに『すごいね』と言われれば、最初の一歩はスモールステップでも、大きな肯定感を得て成長します」と夘木校長は語る。