正しい行いを自ら進んでする 仏教に根ざした人間形成
立正大学付属立正中学校・高等学校は、日蓮宗に基づく仏教主義に根ざした教育を行っている。同校が掲げる「行学二道」は、「修行と修学」つまり「行いと学び」の両方を共に大切に指導しながら、人間力を高める教育を実践するものだ。道徳観の形成につながる科目「宗教」は、日蓮聖人が歩んだ足跡をもとに、平和教育を行い、親などを大切に思う気持ちを育み、正しい行いを自ら進んで体現する、そんな生徒の人間形成を助ける。
「こうした学びは中高時代には気づかなくても、年齢を重ねて社会人となり、家族をもち、子育てをする中で思い出されるようです。生活の中で自然と体に染み込んでいるのでしょう」と語るのは大場一人校長だ。
また、入学直後に配布されるスケジュール手帳で、自己管理能力を身につける。日常的な予定だけでなく、学習計画も手帳につけることで、日々の振り返りもでき、生活・学習習慣が定着する。この手帳は学年ごとに異なる仕様となっており、中学では「生活管理手帳」として機能し、忘れ物や宿題の管理が行いやすくなっている。高校は「進路手帳」として模試のスケジュールなどが入り、大学入試に向けたスケジュールを立てやすくしてある。
総合的な思考力が身につく 「R-プログラム」とは?
同校の特徴として、「とりわけ大切に考えているのが国語力です」と強調する大場校長は、「AI化が進んでも、話す力や読み取る力、コミュニケーション能力は必要です。国語力をつけることで、英長文のパワーリーディングも可能となるなど、他教科に影響する思考力も身につきます」と続ける。
そのための同校独自のアプローチとして、「Research(調べる)」「Read(読み取る)」「Report(表現する)」の3つのスキルを伸ばす「R-プログラム」には特に注目だ。朝読書は多くの学校が導入しているが、本校では、あえて行わず、自らの読書の時間を創り出す習慣を身に付けさせる。読書の記録をする読書ノートや、読書量を競う「リーディングマラソン」を行っている生徒が積極的に読書に取り組み、知識や見聞を広げるよう促す。
朝のショートホームルームでは、コラムリーディングと1分間スピーチも行う。新聞などのコラムを読み、その内容を200字に要約し、さらにそのテーマについての考察を自分の言葉で発表するのだ。身近な社会問題、環境問題にふれる機会にもなる。学年が上がると社会科や理科と連動させ、表やグラフなどのデータ分析も。グループディスカッションやディベートに発展させている。校内の弁論大会(毎年11月開催)も実施される。
最初から人前でうまく話せる生徒ばかりではない。話すことが苦手な生徒やまったく話せない生徒もいるが、その場合、まず先生と1対1で話すことから慣れていく。また、最初は1行しか書けない生徒も、1年かけてしっかりとした文章を書けるようになっていく。それぞれの適性に配慮しながら、無理強いをさせずに少しずつ自信をつけさせるそうだ。
「最初はともかく、1年間ずっと拒否反応を示す生徒はいません。人前で話すことが苦手なお子さんのために、あえて本校を選ばれる親御さんもいらっしゃいます」と大場校長は、その効果に太鼓判を押す。
「R-プログラム」と融合させた キャリア教育で自分の進路を発見
「R-プログラム」は、このような「読む・書く・伝える」のサイクルを繰り返すことで読解力や思考力、表現力、他者への共感力などを鍛えるが、キャリアデザインプログラムともリンクさせることで、将来の進路選択にもつなげている。その一例が、さまざまな仕事の第一線で活躍する社会人の話を聞く「職業講話」(中1対象)だ。特に卒業生による講話は、中高時代の話にも触れられ、生徒にとって身近なモデルロールとなるという効果がある。これまで映画監督やカメラマン、キャビンアテンダント、経営者、鉄道関係者、保育士など多彩な職業の卒業生たちが招かれた。
また、中2での「マナー講習」を経て、中2・中3では「職場体験」を行い、中2は体験を「職業新聞」にまとめる。その際、新聞記者に見出しの付け方を教わるなど、本格的な新聞制作を経験するそうだ。中3は、体験について「体験報告会」を実施する。ここでも「書く・伝える」ための技術が着実に身につく。
「職場体験」では生徒の志望を聞き、なるべく希望に沿う職場を探すが、卒業生の協力もあり、多彩な体験先が用意される。10代の職に対する知識はまだ浅く、大企業を中心にイメージしがちだが、卒業生が営む町工場に最先端技術があることを知ることも。「理系が得意=将来は研究職」と考えていた生徒が、2年次に信用金庫へ、3年次に研究所へ行った結果、金融に興味があると気づき、経済学部に進学したケースもある。生徒の進路選択に顕著な効果を上げているようだ。
「朝のホームルームや授業、職業体験など、さまざまな角度からR-プログラムを実践することで、学年が上がるにつれて渦巻き式に力をつけていきます」と大場校長は話す。実際、その成果として、外部の作文コンテストや弁論大会などに挑戦し、上位入賞する生徒も増えているという。
また、面接や小論文が課される推薦入試などでも、準備にとまどうこともないそうだ。
「記述の増える大学入試共通テストでも、役に立つはずです。ただ、結果的に大学入試で効果を上げるとしても、それ自体が目的ではありません。生徒が自信をつけながら得意なことを伸ばすこと、くじけず挑戦しながら自分の進路を見つけることの2つがねらいです。本校は英語教育にも力を入れているので、いずれは英語でコラムリーディングをするなど発展させていきたいと思っています」(大場校長)
コロナ禍でも最大限の教育を 制限を逆手にとった短縮授業の効果
コロナ禍においては、例年行っているアメリカまたはイギリスへの「語学研修旅行」や「イングリッシュキャンプ」、前述の「職業体験」などは中止を余儀なくされた。その一方で、緊急事態宣言発令時(2020年は解除後)に行った通常の授業50分を30分にした短縮授業では、思わぬ効果も。
「短縮授業は、感染リスクを高める食事を回避するために導入したのですが、短い時間に大事なポイントが盛り込まれるよう工夫された授業で、生徒の集中力が高まりました。本校はICT活用が進み、多くの授業をオンラインで行うことも可能ですが、感染対策の制限をしながら、なるべく対面で指導できるよう努めています。一貫して、生徒たちへの教育機会を整えることが大前提です」(大場校長)
ICTに関しては、電子黒板や校内LANの導入、タブレットを活用した授業も進んでいる。授業のサポートアプリ「MetaMoJi ClassRoom」を使って、ステイホーム中の双方向型授業もスムーズに行われ、デジタル教科書運用への準備も順調だ。
最後に大場校長から、こんなメッセージをもらった。
「コロナ禍でもできることを最大限行っていきます。6年間かけた学びの中で、学力と共に人間的成長を促し、生徒の夢の実現をお手伝いします」
自らの体験の中で学び、気付き、「なりたい自分」と「現実の自分」の距離をいかに縮めていくのか、自分でプランニングできるようになる環境が多層的に用意されている同校ならではのメッセージだろう。