リニアモーターカーを作りトーナメントで速さを競う
同校が毎回、企業や大学などの協力を得て、最先端技術のモノづくりに挑戦している「モノづくりプロジェクト」。過去には「クリップモーターカー」や「重量挙げロボット」をチームで製作し、その成果を競い合ったが、昨年度はリニア中央新幹線に導入されることで話題の「リニアモーターカー」にチャレンジした。
このプロジェクトは生徒の自発的な参加を大切にしており、昨年の夏休み後に公示された募集に、対象となる中3から高2までの21チーム(76名)が応募。約2カ月間の製作期間を経て、1月20日に開催された競技・審査会には、インフルエンザのため欠場した2チームを除く19チームが出場した。さらに、今回は初の試みとして男子校3校の特別参加があり、東京電機大学工学部の学生チームを加えた計23チームの参加となった。競技は2チームずつが対戦するトーナメント形式で行い、作ったリニアモーターカーを約1メートルのレール上に走らせ、先にゴールしたほうが勝ちとなる。
チームのメンバー構成はさまざまで、クラスメイト同士のチームもあれば、クラブ仲間のチームもあった。優勝したのは、参加した最高学年の高2生ではなく、高1生のチーム。しかも、文系志望と理系志望の生徒が混ざったチームだというから驚きだ。
試行錯誤や失敗こそが生徒たちの大きな学びに
リニアモーターカーの製作にあたっては、東京電機大学工学部電子システム工学科の大内幹夫先生らを招き、理論やプログラミングなどについての事前レクチャーを数回に分けて実施。材料として配付したのは、車体に搭載する磁石8個、テスト走行用レール、操作盤、マイコンにプログラムを書き込むためのツールの4点だ。車体に関しては、長さと幅に関する制限は設けたが、形状・重さ・材質は自由とした。
「なるべく軽く、抵抗を少なくするために、各々のチームでさまざまな材質を使って車体を製作しており、発想の豊かさに驚かされました」
そう話すのは、同プロジェクトを担当した数学科教諭の中原佑紀先生。専門外のテーマのため、自身も生徒と同じ目線で学びながら指導したという。「知識や材料を与え過ぎて全チームが簡単に走ってしまっても、逆に与えなさ過ぎて全チームが走らなくても面白くないと思い、その瀬戸際のところに難易度を設定することに最も配慮しました。摩擦を少なくする方法をいろいろ試しているチームが多かったですが、失敗しても何度も試みる姿に、生徒たちの成長を感じました。また、チームで取り組むので、自分一人では出ないようなアイデアがたくさん出ることも、生徒たちは体感できたと思います」(中原先生)
仲間とチームで挑戦することで、うまくいかない時も励まし合って前へ進むことができる。ときには衝突もするだろうが、生徒たちにとっては試行錯誤や失敗こそが大きな学びなのだ。
2018年から文科省のSSH指定校に
この「モノづくりプロジェクト」を導入した目的について、入試広報部長の岸本行生先生は、「答えが一つに決まっていない問題に取り組むことの楽しさを、生徒に知ってもらいたい。それが目的の一つです」と話す。さらに、モノづくりに取り組む中で、課題の見つけ方や調べ方、発表の仕方といった探究のリテラシーを身に付けることを重視しているという。
2018年からは文部科学省からSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定されたが、「それも、モノづくりなどに取り組んだことが認められたからこそだと思います」と、岸本先生。今後も「モノづくりプロジェクト」などを継続して実施していく予定であり、今年は夏休みを製作期間とし、秋に競技・審査会を開催するのを目標に、東京電機大学の先生の協力のもとでテーマを決めているところだという。
同校では、こうしたモノづくりへの取り組みを、探究型学習の大きな柱にしたい考え。これまで同校の探究型学習は希望者が対象だったが、今年は高1全員が総合的学習の一環として取り組んでおり、来年はさらに、高1の毎週の授業の中に組み込む形でも行います。
生徒同士が互いの研究を知る「Academic Day」
もう一つ同校が取り組んでいるのが、全学年の希望者を対象とする「Academic Day」。これは、教員から示される教科の枠にとらわれない多様な課題の中から生徒自身が選んで1学期から調査・研究し、1月には成果を講堂やポスター展示で発表するものだ。この「Academic Day」の発表の場では、別のプロジェクトでの取り組みについて発表する生徒もいるため、生徒同士がお互いの研究を知る機会としても機能しているという。
「今年度は教員が示す課題の数と同じくらい、生徒にも自発的な課題を提案してもらうつもりです」と、岸本先生。最後、こうした取り組みが生まれる背景について、岸本先生は次のような同校の気風を教えてくれた。
「本校には、教員が一丸となって、生徒のためになる企画を積極的に取り入れていこうという気風があります。『運針』などの伝統的な教育も重視しながら、新しい取り組みにもスピード感を持って取り組む。それが豊島岡女子の特徴です」