WILLナビDUALアーカイブ 私立中高一貫校

リベラルアーツ教育部が主導する平和教育
身近な行動から平和への貢献につなげる

恵泉女学園中学・高等学校

 恵泉女学園中学・高等学校は、クリスチャンの教育者・河井道が、キリスト教信仰に根ざした人格教育を行う学校として1929年に創立。「神を畏れ 人を愛し いのちを育む」を基本理念をとして掲げ、「聖書」「国際」「園芸」を柱にした教育を行っている。リベラルアーツ教育部が中心となって進める特色ある平和教育について、校長の本山早苗先生、リベラルアーツ教育部長の徳武陽子先生に話を聞いた。

国際友好に貢献できる女性の育成をめざして学園を創立

校長 本山 早苗 先生

創立以来、平和を実現する女性を育てることを大切にしてきた恵泉女学園中学・高等学校。その理由は、創立者・河井道の生い立ちに深く関わっている。

伊勢神宮の神官の娘として育った河井道は、父の失職にともない北海道に渡り、宣教師のサラ・スミスと出会う。11歳でキリスト教の洗礼を受け、その後、新渡戸稲造に伴われて21歳で渡米し、ブリンマー大学に留学。帰国後は日本YWCA(The Young Women’s Christian Association of Japan)の設立に参画し、1912年に日本初の総幹事に就任した。1921年河井道がスイスのジュネーブで行われた会議に出席した際、第一次世界大戦直後の当時、敵国であったドイツとフランスのYWCA代表が、互いに歩み寄り、固い握手を交わす様子を見て、“シスターフッド(女性同士の連帯)”の大切さを実感した、という逸話がある。また、卒業生で作家の柚木麻子さんは、昨年、河井道をモデルにした小説『らんたん』を執筆。津田梅子や広岡浅子などに続き、女子教育に尽力する女性たちの活躍を描いた作品で、多くの新聞にも書評が載った。

校長の本山早苗先生は、次のように話す。「河井先生の自叙伝『わたしのランターン』という本の中に、『戦争は、婦人が社会情勢に関心を持つまでは決してやまないであろう、ならば、少女から始めよう』という一節があります。戦争によらず、平和を実現する人材を少女の時代から育てようと考え、恵泉女学園を創ったのです。聖書の中に、『自分を愛するように、あなたの隣人を愛しなさい』という言葉がありますが、本校の教育のベースは『聖書』の神への信仰であり、そこからさまざまな人を理解する『国際』、神様からの恵みに感謝する『園芸』という教育の柱も生まれました」。学校創立の経緯、そして教育理念そのものが、「平和」を願う心に根ざしているのだ。

平和について多角的に学び、自分のことばで伝える力を育む

リベラルアーツ教育部長 徳武 陽子 先生

平和教育を担当するリベラルアーツ教育部は、教科を超えた学びを考え、創り、実践する部門で、各教科の教員によって運営されている。3月の春休み期間中に2泊3日で実施する「ヒロシマ平和の旅」は、生徒が平和について考える重要なプログラム。中3から高3の有志を対象として、例年30名前後の生徒が参加している。この旅では、平和記念公園や原爆ドーム、慰霊碑などを巡り、被爆者の話に耳を傾け、かつて陸軍の検疫所や被爆者の救護施設が置かれていた(にの)(しま)を訪れるなど、戦争の爪痕を肌で感じる体験をする。このほかにも、東京近郊の資料館や遺構などを訪れてフィールドワークを行う「一日平和ウォーク」、世界各地の紛争や差別などの諸問題を取り上げて講師に語ってもらう「平和教育講演会」など、平和について考える機会を数多く設けているのが特徴だ。

リベラルアーツ教育部長の徳武陽子先生は、同校独自の平和教育について、こう説明する。「平和教育を実施する際に大切にしているのは、『私たちは平和の実現のために何ができるのか』という考えを深めることです。そのために、見て、聞いて終わるのではなく、自分が感じ、考えたことをしっかりと言葉にしてまとめ、生徒同士で共有する場を設けています」

「ヒロシマ平和の旅」では、体験談やガイドを担う被爆者、および被爆二世の高齢化が進んでいる。歴史を知るだけでなく、平和活動の後継者問題など現在進行形の課題について考えることも学びの一環だ。原爆投下についても、日本を戦争被害者・加害者双方の立場から捉えて考えを深めていくなど、平和について多面的・多角的に捉えることを大切にしている。

徳武先生は、「平和の実現は、大きな活動だけによるのではありません。当事者の思いを知ったうえで、それを周りの人に伝えるなど、自分の身近でできる小さな行動も大事だと考えています。生徒たちには、そうした感性や行動力を育んでほしいと思っています」と強調した。

「ヒロシマ平和の旅」では、現地の遺構を見学し、被爆者の方にも話を聞く
「平和教育講演会」の様子。2021年はベトナム出身の先生による講演「形のないもの〜難民として私は生きる」が行われた

自らのミッションを探す6年間が卒業後の進路にもつながる

平和教育とともに大切にしているのが、キリスト教信仰に基づく奉仕活動だ。クリスマスの時期には「クリスマス活動勉強会」を開き、さまざまな慈善活動団体や福祉団体から講師を招いて話を聞いた上で、保育園や福祉施設を訪問して交流会や清掃活動などを行う。また、NPO法人チャイルド・ファンド・ジャパンを通して、各学年がフィリピンの子どもの里親となって援助する活動も行っている。毎月礼拝で募った献金を里子に送り、6年間里子の成長を見守りながら、自分たちも成長していくのだ。

徳武先生は、「『隣人に手を差し伸べる』というささやかな活動が、平和を創っていくことにつながるのではないかと思います。こうした活動が身近にある恵泉の生徒からは、強い意志と温かい心を感じます」と話す。

平和教育や奉仕活動で得た経験を将来の進路に役立てる生徒も多く、国際協力団体や医療・看護系への就職率も高い。昨年のクリスマスには、NPO法人ワールド・ビジョン・ジャパンに就職した卒業生の協力要請があり、世界の恵まれない子どもたちにプレゼントする「アドベントカレンダー」*作りを在校生が手伝った。

本山先生は、「恵泉の教育の最大のテーマは『共に生きる』ということです。学校の全ての教科や行事、学びがそこにつながっています。生徒には、『あなたには、あなたにしかできない使命があります。それを6年間で探してください』といつも伝えています。皆さんもぜひ、本校の6年間で、校歌の『友なき人の友となる』というマインドを育ててください」と受験生にメッセージを送った。

有志による南三陸の歌津地区での支援活動の様子


  • *イエス・キリストの誕生日であるクリスマスまでの期間をカウントダウンする特別なカレンダー