WILLナビDUALアーカイブ 私立中高一貫校

音大附属の環境を活かしたコース改編と
新校舎完成で新たなステージへ

国立音楽大学附属中学校・高等学校

大正時代に創立した「東京高等音楽学院」を前身にもつ国立音楽大学は、数々のコンクールでの受賞者、プロの音楽家、音楽科教諭を輩出し、音楽大学として言わずと知れた名門校だ。その国立音楽大学の附属校として、共に長い歴史を歩んできた国立音楽大学附属中学校・高等学校。コース改編に伴う新たな魅力について、滝澤秀副校長にうかがった。

滝澤 秀副 校長

コース改編で生徒の希望する進路支援を強化

音楽に特化した教育だけでなく、高校に普通科を設置したのは1963年。一般大学への進学実績があるのも特徴的な同校だ。昨年度までは、中学校では普通科を文理コースと称していたが、2023年度から音楽教育に特化した演奏・音楽コースと総合表現コースの2コース制に改編した。専門的に学びたい生徒は前者、「音楽を始めたい」「音楽のある環境で学びたい」という生徒は後者を選ぶ。このように中学では音楽を学びたい生徒を全面的に支援する一方で、高校からは音楽科と普通科(特別進学コース、総合進学コース)にし、生徒の希望にフレキシブルに対応できるよう、音楽大学と一般大学の両方ともに進学支援を強化する体制を整えた。

「本校を希望する生徒は、音大の附属ということで選んでくれます」と話す滝澤副校長。ただ、全員が小学生からの思いを貫くわけではない。その受け皿となってきたのが普通科だ。「高校進学時に進路変更し、音楽に特化した学びをやめる場合、他校を受験し直すのは、受験勉強だけでなく、新たに人間関係を構築する必要もあり、多感な時期にある生徒にとって負担が大きいでしょう」。そのため、環境を変えずに、プロの音楽家を目指さなくとも、好きな音楽をそばに感じながら普通科で学べるメリットは大きい。「本校は音大の附属校ということもあり、普通科でも音楽好きな生徒が集まりますし、音楽関係のイベントも多様です。また、これまで普通科からも約20%の生徒が音大に進学しています。コース等の改編に伴い、今までと違って普通科は内部進学の制度がなくなりますが、指定校推薦を利用することで国立音楽大学に入学することが可能です」

普通科で社会人講師を招いてのゼミがスタート

同校の新たなるスタートの目玉となるのは、普通科が隔週で6日制になることだ。土曜日の2時間を「KUNIONミライ探究」というゼミ活動に充てる。講師は、同校教員でなく、外部のさまざまな業界の第一線で活躍する社会人だ。今年度、講師を務めるのは、音楽療法士、薬学系の大学教員、テキストマイニングを専門とする大学教員、プロダクトデザイン系の会社社長、児童文学の研究者、コンサルタント企業の社長の6名。自分で第3希望まで出して決定したテーマで調査を行い、最終的に発表する。現在の高1生からスタートし、高2まで1年間ごとにテーマを変えて学ぶ。「大学入試において総合型選抜が増加する中で、いかに自分をアピールできるか、ゼミ活動を通じてその力を身につけてもらいます。また、社会人講師を招聘するためには、私達教員も広くアンテナを張る必要があります。音楽教育のみにあぐらをかかず、教員自身も力をつけながら、尖った学校を創っていきたいと考えています」

また、学習面でかねてより大切にしていることは、復習とりわけアウトプットすることだという。従来の日本の授業は、50分授業の間、教師が話し続ける一方的なスタイルがほとんどだっただろう。しかし、同校では、「定着率200%」を目指し、新しい知識を30分間インプットしたら、必ずノートを見直させ、授業中に学んだことを話したり、考えたりする時間をそれぞれの教員のやり方で設けている。生徒同士のペアワークで問題を出し合ったり、話し合ったりするシーンも多い。さらに、2コマ前の授業の復習を行う「返し縫い勉強法」を行い、この繰り返しで定着率を上げることに成功している。

「KUNIONミライ探究」は主に大学の先生やその方面の専門の方々が担当し、
大学での学習の先取りとしても優れたプログラムです

最新設備が詰まった新校舎で快適に学べる環境

2023年3月に竣工し、最新設備を整えた生徒たちの新しい学び舎が、地上4階建ての新校舎「2号館」だ。再生可能エネルギー設備を導入し、省エネルギー対策も実現。防音や音響に優れた音楽室やレッスン室、スタジオは中学・高校の設備とは思えないほど高性能の設備だ。免震構造になっているので、災害時の避難場所にもなるというから、子どもを預ける保護者にとっては安心だ。また、音楽科の生徒だけでなく、普通科の生徒にとってもうれしいのが、自習室やコミュニケーションラウンジの設置だ。壁が斜面となっており、上に行くほど広いため開放感あふれる設計である。現状でも十分魅力的な室内だが、「自習室はもう少し改善して、おしゃれなカフェのような空間にする予定です」とのこと。旧校舎は解体し、2024年度からは人工芝のグラウンドが誕生するのも楽しみだ。

同校は、「自由・自主・自律」を教育理念に、いずれのコースでも合唱やアンサンブルを行う中で、互いを高め合うができる校風をもつ。それが「アンサンブルのくにたち」と呼ばれる所以だ。「自由・自主・自律」について、滝澤副校長は「これを校訓にする学校は多いと思います。しかし、自由には責任を伴うことを知っていてほしい」という。同校は、生徒の自由を尊重しているため、制服もないし、髪色も好きにしてよいが、皆、TPOをわきまえ、激しく逸脱する生徒はいないそうだ。「音楽が好きな子どもたちが集まるせいもあって、おだやかな子が多いです。やんちゃな生徒の多い環境になじめないお子さんには、とても過ごしやすいでしょう」。学校選びの一つのポイントになりそうだ。 「現代は、個々のスーパーマンが活躍するのではなく、何をするにしてもチームで協働するアベンジャーズの時代です。『アンサンブルのくにたち』だからこそ、それぞれがもつ違う力で課題解決をする力が身につきます。本校が求める生徒像は、目的意識をもち、積極的に行動できる人。そして、『なぜだろう?』と疑問をもてる人、考える人。それがないと、何を学ぶにしてもすべて受け身になってしまいます。AIの時代、人間でなくてもできることが増えますが、機械との違いは感情豊かに考える力ではないでしょうか?本校で、iPadを生徒に貸与し、授業に取り入れ、調べ学習も情報共有もスムーズになっていますが、ぜひ科学技術と共存しながらも、豊かな感受性を育んでほしいと思っています」と滝澤副校長は語る。

安心の免震構造、環境に配慮した太陽光発電、
地域の方々にも開放予定のスタジオなどを備えた「2号館」
自習や談笑の場となるコミュニケーションラウンジ