WILLナビDUALアーカイブ 私立中高一貫校

体験を通して身につけた“志”が、
生徒の未来を切り拓く

足立学園中学校・高等学校

2029年に創立100周年を迎える足立学園。「志(ゆめ)なき者に成功なし」を合言葉に、独自の教育を展開している。特に体験を通した学びを重視しており、2022年からアフリカスタディーツアーを開始した。同校の教育の特徴と新たな取り組みについて、井上実校長と原匠教諭にお話をうかがった。

教育の根幹にある“志”プログラム

井上 実校長

足立学園は昭和4年、「足立の地で、社会・地域に貢献できる優秀な人材を育てたい」という地域の有志の方々の出資により設立した。創立時の建学の精神『質実剛健 有為敢闘』は、誠実で強くたくましく、最後までやりとげる人材を育成することを目指したもの。この建学の精神を生かしながら、わかりやすい言葉で表現したのが教育目標『自ら学び 心ゆたかに たくましく』だ。

心身ともに著しく成長する中学・高校時代。足立学園では2014年にICT活用教育、2018年度から探究総合の授業、さらにそれ以前から実施しているイギリス語学研修やターム留学など、21世紀型教育と呼ぶにふさわしい多様なカリキュラムを導入し、生徒の可能性を広げてきた。そうした足立学園の教育の根幹にあるのが“志”プログラムだ。

井上実校長は言う。

「私は日頃より生徒たちに『夢なき者に成功なし』という言葉を発してきました。ここで言う“夢”とは個人的なものではなく、世のため、人のためになすべきこと、すなわち“志”です。自分の人生を賭けるべき“志”を自覚し、それを貫き通す人材(人財)を育てる。それが足立学園の“志”プログラムです」

なぜ“志”が大切なのか。井上校長は大学進学を例に挙げる。

「大学進学実績を上げることも必要でしょうが、いい大学に多く合格させるのがいい学校かというと、私は疑問に思います。大学入学がゴールではなく、何のためにこの大学に入り、何を学び、そこで学んだことを社会貢献にどう活かすのか。そうしたことを中学・高校の間にしっかり考えておかないと、ただ大学に行っただけになってしまいます。学力は総合的な人間力のほんの一部にすぎません。それ以外の部分、“想い”をしっかりと身につける必要があると思うのです」

そうした考えから、同校の進路指導は「本人が行きたいところをめざす」ことに徹している。目標・目的が明確なため、海外の大学をめざす生徒も増えているという。

4つのプログラムからなる“志”プログラム

“志”プログラムは、4つのプログラムで構成されている。

一つは“志”共育プログラム。生徒の発達段階にあわせて守(基礎基本)・破(発展)・離(自修自得)の3ステップで自尊心、自信、自負心、自己肯定感を高めていく。まず中1で、グループワークを通じて自分を知ることから始まり様々な人の志を学びながら自分の志を確立していき、中2ではボランティア活動などを通じて世の中や社会を知り、中3では職業体験を実施し、仕事や社会の仕組みを理解していく。並行して足立区や助産師の協力のもと「紳士教育」や「主権者教育」などの“志”体験プログラムも行われる。

高1から始まるのが“志”探究プログラムだ。中学で培ってきた自らの“志”を発展させ、「好き」と「なぜ」を突き詰めていくことで、生徒たちは自分なりの大きな“志”を見出し、それが進路選びやその後の学習へのモチベーションとなっていく。

「高1では松下政経塾と連携したプログラムを用意しています。プログラムの最後には、政経塾の講堂で、大人の前で自らの“志”を発表。高校から入ってきた生徒たちもこうした体験を通して自らの“志”と向き合います」

ところで、「教育」ではなく「共育」という表現を使っていることにお気づきだろうか。ここにも同校ならではの思いが込められている。

「今、教育は驚異的なスピードで変化しています。最も優れた人材育成法は『育てるのではなく、自ら育つひとをつくる』こと、教育ではなく共育へと考え方を変える必要があるのです。

そこで“志”です。“志”プログラムを始めるにあたり、私自身の反省も含め、教員自身も“志”に真剣に向き合わなければと。教員・生徒がそれぞれに自分の“志”と向き合うことで、相乗効果で“志”が育まれていくと考えたのです。そこで(株)成基総研とタイアップし、教員に“志”研修を受けてもらいました。心の奥底から自分自身と向き合う必要があるため、ずいぶん苦労した教員もいたようですが(笑)、社会全体を見て、自分自身の特性を意識する過程を通して、研修を受講した教員それぞれのスキルアップを確信しています」

そうした取り組みもあり、同校には学校全体で生徒のやりたいことを尊重するという同校のカラーが生まれている。

「生徒の中には中学時代に起業した生徒や、自ら大学の研究室を訪ねて探究を進める生徒もいます。研究費を出してほしいと交渉に来る生徒もいます。つい先日も、学内の使っていない花壇で、農作物の日照実験をしたいと言ってきた生徒がいました。排水設備なども自分たちで作るからと。もちろんWELCOMEです。生徒がやりたいことをとことん極め、学校側はそれを全面的にバックアップする。そうした環境があることが、本校のコンピテンシー(課題解決能力)養成になっています」(井上校長)

地球の縮図・アフリカの現状を知るスタディーツアー

“志”プログラムの最後の一つが“志”グローバルプログラムだ。生徒の目的にあわせて選べる選択制のプログラムで、従来①オーストラリアスタディーツアー(中1~)、②イギリスラグビー校での語学研修(中3~)、③海外ターム留学(高1)、④海外修学旅行(高2、北海道、沖縄との選択制)、⑤オックスフォード大学(ハートフォードカレッジ)(16歳~)の5つのプログラムが実施されていたが、グローバル教育を進めていく中で、先進地域以外も含めて海外研修を実施する必要があるとの考えから、新たなスタディーツアーが加わった。2022年から始まったアフリカスタディーツアー、そして2023年から始まるラオススタディーツアーだ。

原 匠先生

担当する原匠教諭は、2017年から2年間、現職教員特別参加制度を利用してJICA青年海外協力隊でラオスに派遣された経験から、スタディーツアーを企画したという。

「現地の教員養成校や小・中・高などで指導に携わったのですが、子どもたちの目の耀き、学びに対する意欲に触れ、今の日本にはそれが足りないことに違和感を持ちました。その後、ナミビアで活動を続けている同期の隊員を訪ねて行き、砂漠、未開といった自分の中のアフリカのイメージが完全に覆されたのです。現地の人々の漲るパワーを感じる一方、貧困、エネルギー、など地球が抱えるすべての問題がここにある。子どもたちに未来を考えさせる活力になればと考え、スタディーツアーを企画しました」

アフリカスタディーツアーは、中3~高校生が対象。フリージャーナリストの大津司郎さんをツアーガイドに招き、9日間の日程で企画された。参加者は事前学習として①目的の確認と課題の発表・課題図書の紹介、②アフリカの国・文化・歴史・気候等について学ぶ、③大津さんによる講義、④タンザニア大使館訪問などに取り組んだ。

2022年12月17日に9名の生徒がアフリカに出発した。16時間40分(時差-6時間)でアジスアベバ空港(エチオピア)到着、さらに乗り換えて翌日の昼過ぎにキリマンジャロ国際空港(タンザニア)に到着するというかなりの長旅だ。現地では地元のNGOとの植林活動、キャンプ体験、現地校訪問、マサイ族との交流、コーヒー農園エコツアー、サファリツアーなどの日程をこなした。ツアー後、生徒たちは論文を書き、プレゼンテーションを行った。中には2万字以上のレポートを仕上げた生徒もいたという。

「ツアーの目的として、異文化理解と『アフリカの現状を知り、自分なりの問題意識を持って調査・研究を行い答えを出す』ことを掲げていたのですが、今回のツアーが生徒たちに与え影響は予想をはるかに超えていました。例えば成田ではマスク、サングラス、リュックを体の前で抱えるという具合に、不安でいっぱいだった子が、日が経つうちにそれらを一つずつはずしていき、笑顔で周りの人と話すようになりました。帰国後には自ら生徒会に立候補し、積極的に取り組んでいます。他にも医者になるという意欲を強くした子、生徒会の役員になった子など、アフリカ体験が生徒たちにいい影響を与えてくれたことを実感しています。また書き上げたレポートもそれぞれ素晴らしいもので、『大学の総合型選抜にも使えるようなレポート』というこちらの目論見を大きく超えたものでした」(原教諭)

さらに2023年7月16日から第2回のアフリカスタディーツアーを実施。今回のツアーにも10名の生徒が参加した。

「第1回の反省を踏まえ、今回はアフリカの光と影の部分を生徒に見せることを意識しました。タンザニアの首都・ダルエスサラームでカリアコーマーケットという活気ある市場を訪ねたり、自分たちと同世代の学校(セカンダリースクール)を訪ね、交流したり。学校訪問では、全校生徒1200人が校庭に集まってくれ、生徒たちはその前でパフォーマンスをしました。また、体調を崩した生徒を連れて行った病院で、病院創設者に会ったことで、医者になる意思を強くした子もいました。今回もさまざまな出会いや体験が、生徒たちにたくさんのものを与えてくれたと感じています」(原教諭)

そしてこの10月には、コロナ前から企画されていたラオススタディーツアーが始まる。こちらは10日間の日程で、国際協力の現場見学や、現地の複数の学校訪問など、交流を重視した内容を予定。初回は5名の生徒が参加予定だという。

「アフリカでもラオスでも、現地を訪ねることで予想を上回る学びがあることを実感しています。スタディーツアーの様子は、ライブ配信やツイッターなどで学内に共有しており、オンラインスタディーツアーという形で二次的に参加した生徒もいます。こうした生徒が増えていくことで、将来学内で大きな効果が出るのではと期待しています」(原教諭)

アフリカ、ラオスのスタディーツアーは、今後も継続して行われていく予定だ。

最後に、それぞれの先生から保護者へのメッセージをいただいた。

「私の持論なのですが、教師は教え過ぎ、それも自分の枠内でしか子どもに教えることができていないと思います。今教師に必要とされているのは、いろいろな仕掛けを作っておいて、彼らがいつ、どれに反応するかを待ってそれに応え、さらに伸ばしていく力なのではないでしょうか。子どもたちはトライ&エラーを繰り返すことで、くじけない強い気持ちやたくましさ、モチベーション、前向きな姿勢などを身につけます。本校は、そうした力を身につけられる学校だと思います。意欲ある子どもたちと、さまざまな経験をともにしていければと思っています」(原教諭)

「子どもたちは日本の宝であり、将来に向け無限に広がる力、ものすごい力を持っています。保護者の方々には、その力を伸ばそうという気持ちで学校、そして進路を考えていただきたいと思います。本校では子どもたちの能力を引き出すようサポートしていきますし、最終的には社会貢献できる人に育てるべく、最大限バックアップしていきます。足立学園で安心して、好きなことにとことん取り組んでみませんか」(井上校長)

アフリカスタディツアーに参加した生徒の声

中井大誠(第1回リーダー:参加時高2) 

将来、海外で仕事をしたいと考えていたところ、動画サービスで現在のアフリカの街の様子を見て、想像と全く違っていたことに驚き、現地の人々と交流し文化や生活感を体験すること、日本や海外の他地域との違いを学びたいと思いました。アフリカというと怖いイメージがあるかもしれませんが、行ってみると全くそんなことはなく、充実した9日間でした。特に印象に残ったのは、中心街の発展具合と、貧困層の街との格差です。研修に参加したことで、将来の方向性が明確になりました。大学でさらにアフリカについて学び、留学も検討中です。

髙橋歩志(第1回参加者:参加時中3)

アフリカの医療に興味があり、「地域の経済活動を守りながら、医療を促進する」というテーマを持って研修に臨みました。研修前は人前で話すことが苦手で、自分から英語を話すことすらできませんでした。しかし自分の考えや想いを伝える経験を通して恥ずかしさがなくなり、自信が持てるようになりました。また、異文化や歴史に触れて視野が広がるとともに、困難に立ち向かう勇気や柔軟性も身につき、自分が成長できたと感じています。研修で培ったコミュニケーション能力を活かし、これから生徒会で学校をよりよくしていきます!

杉田雅人(第2回リーダー:高2)

研修に参加したのは、「日本で想像するアフリカの姿と現状は違う」という事前の説明を聞き、その違いを自分の目で見たいと思ったことがきっかけです。実際に行ってみて、その言葉を痛感しました。特に日本では感じられない活気や現地の人々のエネルギー! 元気でパワフルで絶対に笑顔な現地の人々とのコミュニケーションやその彼らの生活風景を見られるだけで、これ以上ない学びになったと思います。また「コミュニケーションとは何なのか」を体で感じ、コミュニケーションへの恐怖心がなくなったことも、僕にとっての大きな収穫です。

鈴木梓恩(第2回参加者:高2)

探究の授業でアフリカの若者の失業率とIT・ICTの関連性について探究していることから研修に参加しました。アメリカやヨーロッパなどの情報は、ニュースなどを通して日常的に知ることができますが、アフリカの情報は日常生活ではあまり入って来ません。実際に足を運んだことで、多くのものを見、肌で感じることができました。初めての海外でしたが、現地の人たちは皆とてもフレンドリーで、気軽に話せて楽しかったです。研修を通して海外への興味も強まりました。英語力や言語能力を伸ばして、将来海外で活躍できるようになりたいです。