多彩な国際交流プログラムで、海外を志す生徒を後押し
1938年創立の八雲高等女学校を前身に持つ八雲学園中学校高等学校は、2018年から男子生徒の募集を開始。この春、共学1期生が高校を卒業した。校長の近藤彰郎先生は「男子生徒たちは、先輩の女子生徒が培ってきた伝統を受け継ぎながら、新たな活力を与えてくれました。共学化に当たっては、『伝統と革新の確かな調和』を目標に掲げていますが、その期待に見事に応えてくれたと思います。卒業式では、多くの生徒たちから『八雲に入学してよかった』という言葉をもらい、たいへん喜ばしく思いました」と振り返る。
今年度の大学合格実績を見てみると、とりわけ目を引くのが海外大学の合格者数だ。昨年度は7名、今年度は20名が合格している。ここまで大幅に増加した背景には何があるのだろうか。
その一つが、2020年度からスタートした海外協定大学推薦制度(UPAA)だ。これは、TOEFLやIELTSなどの英語検定スコアと高校3年間の成績で、アメリカ・イギリス・オーストラリアなどの協定大学の推薦入試が受けられる制度のこと。グローバル併願も可能で、日本の大学受験と並行して準備を進められるとあって、生徒の関心が年々高まっているという。
もう一つは、学校生活に密接した国際交流プログラムである。たとえば中学では、すべての学年において、イエール大学との交流や、在留外国人とゲームや会話を楽しむ「イングリッシュファンフェアー」、朗読劇や英語劇を披露する「英語祭」が年間行事に組み込まれている。学年ごとのイベントも多彩で、中1は、英語の課題文を暗唱する「レシテーションコンテスト」、中2は、自分の主張を英文にまとめ、聴衆にわかりやすく伝える「スピーチコンテスト」に取り組みながら、英語を話すことに対する心理的抵抗をなくしていく。そして、中3になると、中学の英語学習の集大成として、生徒全員が「アメリカ海外研修」(2週間)に参加。アメリカ西海岸にある同校所有の研修センター「八雲レジデンス」を拠点に、UCSB(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)で生きた英語を学ぶ。
希望制のプログラムも充実しており、高1対象の「9カ月プログラム」では、3カ月のアメリカ留学を中心に、出発前3カ月、帰国後3カ月のきめ細かい事前事後学習を組み合わせた語学研修を実施。その期間に、合計270時間の英語の授業を設けることで、生徒の英語力はCEFRのB1またはB2レベルに到達するという。 加えて、世界50か国の私立学校250校が参加する国際私立学校連盟「ラウンドスクエア」加盟校としての活動も活発だ。中国やケニアといったさまざまな国で開催される国際会議には、毎年多くの生徒が手を上げ、意欲的に参加している。また、ホームステイの受け入れも積極的に行っており、今年はヨルダン・オーストラリア・イングランドからの生徒を迎える予定とのこと。「共学化によって、男子留学生も受け入れられるようになったことは大きな変化です。また、数は少ないものの、本校にはイスラム教のハラル食に対応できるご家庭もあります。10年前から続けている取り組みですが、本校の生徒の多様性が広がった分、その成果も高まっていると感じます」(近藤先生)
途中復学やチューター制度など、随所に表われる“面倒見の良さ”
同校では、留学生のみならず、家族の海外転勤に帯同した生徒が帰国する際の復学も柔軟に受け入れている。いわゆるこの“面倒見の良さ”が、同校の大きな魅力でもあるのだ。
その姿勢が表われている代表的な試みの一つが、「チューター制度」である。これは、中学3年間、担任以外の教員が生徒の専属のチューター(学習アドバイザー)となって個別に支援するシステムのこと。中1の担当は学校が決めるが、中2以降は生徒が希望の教員を指名できるという。悩みがあればいつでも連絡できるように、生徒にチューターの携帯電話番号を伝えている点も特徴的だ。チューターの存在は、生徒が安心して学校生活を送るための大きな支えとなっている。
また、「月に1回は、生徒たちが感動する機会を提供したい」という思いから、「文化体験」を設けている。音楽や演劇といったさまざまなジャンルの芸術鑑賞のほか、年度初めにはバーベキューパーティーなど、生徒同士の親睦を深めるイベントも開催されるという。その狙いについて近藤先生は、「学校は、勉強に追われるだけの窮屈な場所ではなく、さまざまな道に開けた場だと感じてもらいたいのです。そのなかから自分の進みたい道を見つけてくれたら、これ以上の喜びはありません」と語る。
生成AIと上手に付き合うためのリテラシー教育にも注力
これからのデジタル化社会を見据え、ICT教育も盛んだ。生徒は、1人1台のタブレットPCを所有し、「YES(Yakumo English: Gateway to Success)」と呼ばれる英語のeラーニングシステムや、課題の情報収集、資料作成に活用している。世間では、ChatGPTを始めとする生成AIを子どもが利用することの是非についての議論が巻き起こっているが、近藤先生は「リスクがあるからといって、使わせないことが正しい判断だとは思いません」と断言する。そのうえで、「生成AIに宿題の代行を任せたところで、何一つ自分の力にはならないということは、中学生でも理解できるはずです。大切なのは、安易な道に流れてしまう自分の気持ちを律する心です。大学とは違い、中学・高校には、朝礼や学年集会など、生徒たちに教員の思いを伝える場があります。そのような場で、物事の本質をとらえることの大切さや、学習者として在るべき姿勢を説き、AIやインターネットとの正しい付き合い方を考えてもらいたいと思っています」と話す。
最後に近藤先生は、受験生とその保護者に向けて、次のようにメッセージを送った。「多様化の時代に必要なのは『お互いさま』の精神です。本校が多彩なグローバル教育や学校行事、学習支援を用意しているのも、他者の個性を尊重し、価値観の違いを許容する姿勢を大切にしているからです。子どもたちには、『人に優しく、自分に厳しく』をモットーに、寛容な心を持つ人になってもらいたい。それが本校の願いです」