私立中高一貫校

6年間の部活動を通じ
磨き上げていく人間力

日本大学豊山高等学校・中学校

現役大学進学率が高い男子校の一つとして知られる日本大学豊山高等学校・中学校。真言宗豊山派が設置した旧制豊山中学校をルーツに持ち、人間的な成長を重視した教育を展開している。大学付属ならではのゆとりある時間で基礎学力をしっかり身につける一方で、6年間の部活動を通して生徒たちの成長を育んでいる。今回は、その部活動に焦点を当てる。

演劇部顧問 上沢花子先生(左)とバレーボール部顧問 梅田雄一先生(右)

面倒見の良い先輩が多く中学で推奨される部活動

中高時代は、子どもから大人への階段を登る非常に大切な時期であり、そこに大きく貢献しているのが部活動だ。学年を超えて同じ競技や文化活動を楽しむなかで、社会生活を送る人間の一員としてより良い人間関係の築き方や、自分が満足できる人生を送るための種の見出し方を学んでいく。日大豊山の部活動もそうした人間的成長の一翼を大きく担うものとなっている。

「クラスだけ、同学年だけの付き合いよりもはるかに豊かな人間関係が生まれることもあり、中学ではとりわけ部活動への参加を推奨しています」と話すのは演劇部の顧問を務める上沢花子先生だ。

「本校はもともと先輩の面倒見がよく、高校生が中学生に譲ってあげている場面をよく校内で目にします。そうした関係は部活動でもまったく同じで、生徒にとっては居心地のよい学校だと思います」とバレーボール部顧問の梅田雄一先生も同意する。

豊山中には体育部(運動部)が10、学芸部(文化部)が11用意されている。体格差が大きいため、集団スポーツを行う運動部は中学部と高校部に分かれているが、水泳や体操、剣道など個人競技の場合は、中高合同で練習している。また文化部は基本的に中高合同での活動だ。

「体の大きなアメフト部の高校生に、売店で『たくさん食べろよ』と優しく声をかけられた中学生が、高校でアメフト部に入ると決めた逸話がありますが、こうした単純だけれども純粋な憧れを抱ける空間があることはとても素敵なことだと思います」と上沢先生は語る。

10の体育部と11の学芸部があり、生徒一人ひとりが好きなことに熱中して、有意義な学校生活を送っている

「マネージャーへの転身が今の自分を形作っている」

小池欧佑さん

ここで紹介したいのが、水泳部のマネージャーをしている小池欧佑さんだ。水泳部は高校が現在インターハイ6連覇中、中学が全国大会の常連という強豪だ。

「最初は怖かったです。水泳の経験もない自分が、オリンピック代表選手が何人も出る水泳部のマネージャーが務まるのかというプレッシャーを強く感じました」と振り返る小池さん。

とくに辛かったのは朝練だ。朝6時30分の練習開始に間に合うためには、5時過ぎに起床しなければならない。担任でもある水泳部の顧問の先生に何度も相談に乗ってもらい、「もう少しだけやってみようか」と励まされているうちに、半年ほどで慣れ、今では何でもないという。

マネージャーの重要な仕事の一つはタイム計測。最初は1コースの計測もやっとだったが、現在では5コースの同時計測もできるようになったそうだ。

普段はふざけているような先輩が、いざ練習が始まると一変して真剣になり、試合でめざましい活躍をしてメダルをとっていく姿に、「正直、かっこよくて、憧れます」と小池さん。試合が近づくと油ものやラーメンを控えるなど、トップスイマーならではの高い体調管理意識にも尊敬のまなざしを向ける。

中学は卓球部。高校で別のスポーツを探しているときに、担任に声をかけられ、何となく引き受けることになったが、得るものは大きかったようだ。

「挨拶を含め礼儀や言葉づかいの大切さを学ぶことができたことは最大の収穫でした。水泳部のマネージャーをしていなかったら、今の僕はないと思います」と言い切る小池さん。「今年は、高校はインターハイ7連覇、中学は全中でのメダル獲得が目標です。それが終わったら、日本大学危機管理部への進学をめざして勉強に力を入れます」と明るく抱負を語ってくれた。

水泳部は初心者から全国大会で活躍する生徒まで、中高合わせて200名ほどが在籍している

学校体育だからこそ輝ける場所がある

同じマネージャーでも、選手から転身して成功した例もある。中学校でバスケットボール部のキャプテンを務めた生徒が、高2になるタイミングでマネージャーとなり、1年後の今年、関東大会出場に貢献した。

「最初は、自分のことで精一杯だったそうですが、中3でキャプテンを務めたことで、チーム全体のことを見るようになり、チームのために動くようになると、自分はそういう役目に向いていることが分かったといいます。選手として通用しないからという理由ではなく、チームの勝利に貢献できる役割を担いたいという、ポジティブな意味での転身だったようです」と梅田先生が紹介してくれた。

運動部というとどうしても選手に注目が集まりがちだが、彼らを支える仲間たちがいてはじめて良いパフォーマンスができるのは事実だ。大切なのはそうした役目に相応しい生徒を迎えることができるかどうかだ。

ここに日大豊山に代表される学校部活動の良さがある。学校の先生たちは、部活動に参加していないときの生徒の様子をしっかり把握している。勉学の状況、日常の生活態度、交友関係…そういうものから総合的にその生徒の適性を判断し、その生徒が輝ける場所へと誘うことができるからだ。

「ホームルームとはまったく違う顔でキラキラ輝いている生徒、試合に出られないのに一生懸命応援し、仲間の活躍に躍り上がって喜ぶ生徒…、そんな生徒たちを見ていると、部活動を通して、仲間たちと本当に大切な時間を過ごしていることがよく分かります」(上沢先生)

先輩の姿こそが身近なロールモデル

日大豊山には、高校入試を経て入学してくる生徒もいるが、中学からの一貫生のメリットは、活躍している先輩たちの姿を常に目にしながら、活動を継続していける点にある。高校受験があれば、中3の夏の大会以後は活動を一旦休止せざるを得ないが、日大豊山の場合はそのまま夏以降も高校生の練習に参加することができる部が多い。

「バレーボール部やバスケットボール部など体育館を使用する競技の場合は、中学と高校で別々に練習していても、中学生は常に自分たちよりもはるかにレベルの高いプレーを目の当たりにできます。こうしたロールモデルが身近にいることは、自分を前に進ませる大きなモチベーションになってくれるはずです」と梅田先生は語る。

個人競技の場合は、合同練習をしているからなおさら、先輩の影響力は強くなる。上沢先生も「剣道部の中学生が、自分よりも3〜4歳も上の高校生の先輩たちと仲良く帰っていく姿をみると、きちんとコミュニケーションを取りながら、互いに成長し合える関係を築けていることを強く感じます」と話す。

真剣な大人や仲間の存在が自己肯定感を育てる

中高合同で活動する文化部にも、同様に生徒を成長させる機会があふれている。たとえば吹奏楽部。コーチが付く時期もあるが、楽器の扱い方や演奏方法を教えてくれるのは基本的に先輩だ。だからパートの付き合いは、学年を超え、さらに卒業生にまで連綿と続いていくという。

「正論を主張しすぎて孤立気味だった部長が、教員のアドバイスを受けて言い方やアプローチを変え、部員からの信頼を勝ち得ていった姿は、我々教員にも勉強になります」(上沢先生)

部活動を指導する教員の存在も重要だ。虫好きで、自分の飼育しているヘラクレスオオクワガタの大きさがギネス記録を超える大きさに育てた生徒は、文系にもかかわらず日本大学生物資源学部に進学して活躍している。顧問が彼に劣らず生き物好きで、その姿が大きく影響した可能性がある。

文化部にとって最大の発表の場は文化祭の展示。ただ、模型部では顧問もその展示に毎回参加し、生徒と共に参加者からの票を競うという。

「大人が自分と同じことに熱中をする姿を見て、生徒はこの道でいいのだと自己肯定し、さらなる学びへのモチベーションを得ていくことになるのだと思います」と梅田先生は語る。こうした自分本来の姿をそのまま表現できることが、別学の良さであり、日大豊山の大きな魅力であることは確かだろう。

「スポーツでも文芸でも、自分の好きを好きと言える、好きでいられるのが本校なのです」と上沢先生は締め括った。