私立中高一貫校

「聖書・国際・園芸」の学びから、多様な価値観を認識
世界に目を向け、平和を実現する人に

恵泉女学園中学・高等学校

クリスチャンの教育者である河井道が、キリスト教を基盤とする教育を行う学校として、1929年に創立した恵泉女学園中学・高等学校。創立当初から「聖書・国際・園芸」の三つを柱に掲げ、自ら考え、発信する力を養う教育を実践してきた。「世界に目を向け、平和を実現する人を育てる」という創立者の思いを受け継ぐ教育について、副校長の松井信行先生に伺った。

副校長 松井信行 先生

教育の土台はキリスト教の精神 「感話」で他者の考えを認め合う

恵泉女学園中学・高等学校は90年以上前の創立時から、グローバルな視野を意識し、思考力や発信力を養うという、今の時代にもふさわしい教育を受け継いできた。「創立以来制服がなく、『自由服』で登校することもあって、自由な校風の学校だと言われます。ただし、通学にふさわしい装いや全体の調和を考えながら、着る服を決める必要があります。自由のためには、一人ひとりがきちんと考えて行動することが重要なのです」と副校長の松井先生は話す。

教育の柱の一つである「聖書(=キリスト教の精神)」は、同校の全ての教育活動の土台となっている。その象徴ともいえるのが、毎朝の礼拝の際に述べられる「感話」だ。日頃感じたり考えたりしていることを文章にまとめ、他の生徒の前で発表する。内容は社会問題に対する自分の考え、クラブ活動での葛藤、家庭内の問題までさまざまである。6年間を通じて、どの生徒にも年に数回、必ず発表の順番が回ってくる。この感話を経験することによって、生徒たちは自己を見つめる力、表現力、他者に寄り添う共感力を養う。松井先生は、「感話で重要なのは、他者の話に耳を傾けること。同じ中高生として向き合い、自分とは異なる考えを持つ人もいるという事実を知ることは、他者を認識し、互いを認め合うことにつながります」と話す。

同校では低学年のうちは志望や能力で生徒を分けず、あえて習熟度別授業を行わない。高1からは希望する進路を見据えて、習熟度別の授業を取り入れている。また、高2からは文系・理系のコース制でクラスを分けるのではなく、科目選択制で各自の進路に合ったカリキュラムを作る体制を整えている。得意な科目もさまざまで、目指す進路も異なる多様な生徒たちが一緒に学ぶことで、互いの考えを認め合い、尊重する姿勢が身に付くのだ。

「社会に出れば、さまざまな価値観、能力、思考をもつ人々に出会い、共に生きることになります。平和な社会の実現には、多様な人々とかかわり、認め合うことが必要なのです」(松井先生)

礼拝で自らの思いを語る「感話」は、自身の考えを整理し、聴き手との信頼関係を築く場だ

きめ細かい指導で英語力を伸ばす 園芸での経験は進路に影響も

創立者・河井道の平和実現への思いが込められているのが、二つ目の柱である「国際」。生徒たちが世界に向けて開かれた視野を持ち、高い英語力を身に付けることを目指した教育を創立時から続けている。中学では初めて本格的に英語を学ぶことを前提としたカリキュラムが組まれ、毎回の小テストや、間違いを自己分析するための「直しノート」などを通して、きめ細かい指導を行っている。高校では特に発信力を磨き、平和実現の〝道具〟となる英語力を確実に伸ばしていく。その成果が表れ、昨年度の高2のGTEC®️の平均点は959.2と、全国平均の793を大きく上回った。

国際交流のプログラムも多彩である。オーストラリアなどへの長期・中期留学、夏休みのホームステイのほか、留学生の受け入れや、シンガポール訪問研修も行っている。また、グローバルな視野の基盤となる平和教育として、春休みの「ヒロシマ平和の旅」、東京近郊の施設を訪れる「一日平和ウォーク」、紛争問題などについて講師に語ってもらう「平和教育講演会」などを実施。平和について考える機会を多く設けているのも同校ならではだ。

一方で松井先生は、「英語力を養い、世界に目を向けることは大切ですが、それ以前に自分とは何者か、自分はどこに生きているのかをしっかりと自覚することが重要です」と話す。そのため同校では、高2で京都・奈良への見学旅行を実施して自国の文化・伝統と向き合う機会を設けているほか、情報を適切に判断し活用するためのメディアリテラシー教育にも力を入れている。

三つ目の「園芸」は、同校の特徴的な教育活動といえるだろう。仲間と一緒に命を育て、共に生きるための豊かな心を磨く経験は貴重なものである。中1と高2で「園芸」の授業を必修としており、草花や野菜の種まきから、収穫・加工・調理までを体験。生徒たちは小麦を脱穀してスコーンを作る、収穫した大根でふろふき大根を味わうといった経験を通して、喜びや苦労を仲間と分かち合いながら命の尊さを知り、感謝する心と生きる力、周囲と協働する力を養う。これは「神を畏れ、人を愛し、いのちを育む」という同校の教育理念につながるものである。

また、中2で行う2泊3日の宿泊研修「清里ファームワーク」では酪農も体験。生徒たちは朝5時に起きて牛を放牧し、牧場の仕事や搾乳をする。最初はためらっていた生徒も、牛と接するうちに積極的に世話をするようになるという。その牛の排泄物がたい肥となり、冬に学校の畑に撒かれる。

このような経験は、派生するさまざまな活動にも活かされている。東日本大震災後には、授業で育てた花の苗を被災地に届けるボランティア活動を行った。実際に被災地にボランティアに行った生徒たちは、経験したことのない漁港での手伝いを困惑することなくやり遂げたそうだ。さらに、園芸での学びをきっかけに、農学・薬学・都市緑化などに興味を持ち、そのような進路を選ぶ生徒もいるという。  「中学・高校の6年間で自分と向き合い、自分に与えられた力を他者のためにどう生かすかを考え、人生における目標を見つけてください。大学進学の先で強くしなやかに生きていける力を身に付けてほしいと思います」(松井先生)

※感話…年3回、礼拝時に他の生徒の前で日頃感じたり、考えたりしたことをまとめて発表するもの

3年生から5年生が参加するスピーチコンテスト。毎年外部大会でも入賞者が出ている