私立中高一貫校

他者を思いやる慈愛の心と、新しい価値を生み出す発想力
予測不可能な時代だからこそ「タフで、愛ある女性に」

鷗友学園女子中学高等学校

女子の特性に配慮しながら、その能力を最大限に伸ばす独自の教育を実践し、近年では最難関大学への合格実績を飛躍的に伸ばす女子進学校としても注目される鷗友学園女子中学高等学校。キリスト教の精神を基盤に、他者を思いやり、自分を大切にする心を育む教育には、どんな仕掛けが隠されているのだろう。この春、学園史上初となる「卒業生でもある校長」となられた柏いずみ先生に、教育の成果と今後の展望を聞いた。

校長 柏(かしわぎ)いずみ 先生

力を合わせて困難を乗り越える感動を分かち合うことで学べるものとは

「本校は、明るく元気で、積極的な生徒が多いので、入学したての中1はそのエネルギーに圧倒されるみたいです」と、この春、校長に就任した柏いずみ先生は笑顔で話す。実は柏先生ご自身も高校の3年間を同校で過ごした卒業生だ。新校長に〝鷗友らしさ〟を問うと、「何をするにも全力投球。そして、面白くなくては意味がないと考えるような生徒が多いところ」と表現した。

そんな校風を象徴する行事として、柏先生が挙げたのが運動会だ。その理由を「高校入試(1995年募集停止)で入った私を、内進生の友達が『一緒にやろう』と誘ってくれたのが、ムカデ競争でした」と自身の思い出を添えて説明してくれた。ストッキングを編んだ紐で足首を縛った5人が息を合わせて疾走するムカデ競争は、今も続く人気の競技だが、本番に出場できるのは6月に開かれる予選を通過したチームのみ。クラス替え早々にチームを結成し、5月には練習をスタートさせる。「自分ではやや控えめだと思っていた私が、気づいたら先頭に配置されていて。みんなを引っ張らなければと焦れば焦るほど、転んだり、絡んだり、なかなかうまくいきません。あるとき、ふっと力を抜いて、重心を後ろに傾けてみたら、仲間が押し出す力を受けて、リズミカルにさっそうと走れたのです。『仲間を信頼して力を合わせるからこそ、困難を乗り越えることもできる』ということを実感しましたし、何より楽しかった。生徒たちにも、あのときの私のように、ものの見え方が変わるような体験をたくさんしてもらいたい。校長として、そういう機会を豊富に提供できる学校にしていこうと強く思っています」

運動会のムカデ競争。チームワークが重要なので、練習にも熱が入る

受け止めてもらえるからこそ飛び出す自由な発想

運動会や学園祭などの学校行事や部活動といった学校生活のほとんどは、校友会が中心となり生徒主体で行われている。「下級生が上級生に向ける憧憬の念は大きなものです。上級生はただ優しいだけではなく、やりたいことに真摯に向き合い、ダメなことはダメだと教えてくれる人だからこそ、信頼され、尊敬の対象となり得る。少し前を歩くロールモデルと共に汗を流して、感動を分かち合うからこそ成長できる。大人がいくら諭しても伝わらない部分ではないでしょうか」と柏先生は語る。

この春には、国内最高峰の高校生ビジネスコンテストといわれる「マイナビキャリア甲子園」で、自らエントリーした高1のグループが審査員特別賞を獲得している。協賛する企業や団体が出題するテーマから一つを選び、ビジネスアイデアやサービスを出して競い合うこの大会。書類審査、プレゼン動画審査を経て、各企業・団体の代表チームに選ばれると、決勝大会に進むことができる。鷗友生が代表を務めることになったのは食品メーカーの「ミツカン」。企業の担当者たちからフィードバックを受けながら、「食の変化を予測して、生活を豊かにする『味ぽん』ならではの新ビジネス」とのテーマに対して、「地球温暖化の影響で増加する規格外品の柑橘類を使って、生産者やJAとコラボレーションした「ご当地味ぽん」を作る」というアイデアをまとめ上げて、高い評価を得たのだ。

「誰かが出したアイデアに、共感した者が手を挙げ、すぐに行動に移す。チャレンジする土壌が整っている学校だと自負しています。リーダーとなる一方、時にはフォロワーに徹することもあるでしょう。いずれの立場にも共通しているのは『自分たちがやっていることを最高にしよう』という熱意です。先輩に憧れを抱きつつも、『私たちはもっとすごいことをやってやろう』という野心を抱き、それを実現してしまう。そんな生徒たちを見ていると、たくましく育っているなとうれしくなります。先行き不透明な時代だからこそ、『タフ(Tough)な女性にならねば』と強く感じているのです」と柏先生は話す。

中1と高1で必修となっている「園芸」。校内の畑で花や野菜を育てている

他者の意見を聞きながら自分の意見を伝える手段を学ぶ

「アクティブラーニング」という言葉が浸透する以前から、生徒が主体的・能動的に学ぶスタイルを導入してきた同校。こうした活発な授業が展開できるのも、どんな相手とでも会話の糸口を見つけられる風土があってのことだろう。もちろん、全ての鷗友生がパワフルで積極的な性格の持ち主なわけではない。物静かな生徒もいれば、控えめで引っ込み思案の生徒も当然いる。だからこそ、一人ひとりが自分の居場所をつくれるような配慮がなされている。中1は担任の目が行き届きやすくなるように、1クラスを30人程度に設定。3日に一度行われる席替えも、小さなグループにまとまらず、クラスメートが持つ多様な価値観を知る機会を与えるためだ。

コミュニケーション力の養成では、プロの講師を招いてのアサーショントレーニングも導入している。アサーション(assertion)という言葉には「自己主張」という意味がある。中1、中2で10数回設定されているプログラムでは、人間関係でトラブルが起こりそうなシチュエーションを想定し、どのような対処法があるかを話し合うことで、上手に自分の意見を伝える方法を模索していく。

例えば、ある回では、「友達が自分との約束をすっぽかしたとき、あなたならどうする?」とのお題が出る。「怒りをぶつける(アグレッシブ)」「自分の気持ちは伝えつつ、相手への配慮も忘れない(アサーティブ)」「自分の感情を飲み込んで伝えない(ノン・アサーティブ)」のおおむね3つに分けられる。「面白いのはその後の展開です」と柏先生は言う。「気が弱いから、責めずにやり過ごしてしまう」というコミュニケーションに対して、「自分が我慢すれば相手を傷つけない優しさ」と受け取る生徒もいれば、「自分の失敗を指摘されないほうがつらい」「後で気づいたときに焦る」というような〝一番やっかいな対応〟とのジャッジをつける生徒もいる。コミュニケーションは相手があってのこと。自分では思いもよらない考え方があることに気づくと、「伝え方」の大切さを実感する貴重な経験になる。

学びの楽しさを知ることが未来を切り開くための力になる

生命を育みながら食文化や環境問題へと発展させる園芸の授業、オ―ルイングリッシュで学ぶ英語、身体のリズム感を高めるリトミック等々、日本の女子教育をリードする学びを形にしてきた同校。学習面では、自然豊かな環境を活かした観察や実験を頻繁に行う理科、学校周辺を歩いて地形や歴史を肌で感じる巡検を行う地理など、「学ぶ楽しさ」が散りばめられているのが特徴だ。

それらの成果は、国公立大学や最難関私立大学への合格実績にも反映されている。この春は東京大学への合格者が二桁となり、また一つ抜きん出た位置に立った。「高3では進路別の選択授業の割合を増やしますが、それまでは、進路や成績でのコース分けなどは行わず、全ての生徒に幅広く学んでもらいます。結果、『興味・関心のある科目が複数あって、理系・文系を明確に選べない』というぜいたくな悩みを持つ生徒が増えるので、おのずと国公立大学の志望率も上がる傾向に。みんな、学ぶことに欲張りなのです」との言葉から、やりたいことを見つけて進路を切り開いていく生徒の姿が見える気がする。

最後に、新校長としての指針をたずねると「時代に即した教育を積極的に導入してきた本校ですが、校訓『慈愛(あい)と誠実(まこと)と創造』が示す精神は、教育の土台として変わらずに受け継がれてきました。社会がどのように変わろうとも、他者とコラボレーションしながら新しい価値を創り上げていく力は必要とされるはずです。多様な価値観を認め合い、自分も他者も大切にしながら、未来を切り開いていく〝タフで愛ある女性〟を育てる学校でありたいと思います」と語ってくれた。