
ありのままの自分を受け入れ
高みをめざす力を身につける
同プログラムは、スタンフォード大学の重松教授が実際に行っているハートフルネスの授業を、豊島岡生向けに特別にアレンジしたもの。ハートフルネスとは、伝統的な知恵とアメリカの最先端科学を取り入れ、自分自身とその可能性を発見するのに効果的な方法で、スタンフォード大学の人気科目の一つだ。「全国の高校生を対象に東京大学で実施されたのを知り、『本校でも開講してほしい』と熱望しました」と話すのは、グローバル教育委員会主任・英語科の宇都宮貴代先生だ。もともと多彩な英語プログラムを実施していた同校だが、「リベラルアーツを“英語で学ぶ”機会を提供したい」「海外の名門大学のリアルな授業を教室で再現したい」という思いが以前からあったという。グローバル教育委員会・英語科の西村智絵先生は「日本語では話しにくい場合も、英語だと言葉にできることがあります。特に自分を客観視するには有効な手段です」と、“英語で学ぶ”メリットを話す。そんななか、まさに同校教員が求めていたプログラムに出合ったのだ。

実施の背景には、同校の進路指導も関係している。「別の講演等でも、自分の進路を見つけるために、まずは自分を知ることの大切さを生徒に伝えています。このプログラムを通じて、まずはありのままの自分を受け入れてほしい。そのうえで、より良い自分になるにはどうすればよいかを考えて、行動できる力を身につけてほしいと考えています」と、宇都宮先生は生徒への思いを話す。
心に響くプログラムが満載の3日間
感銘を受けて涙する生徒も
プログラムには中3から高2までの65名が参加。また、東京大学など日本の大学・大学院に在籍する留学生11名が、ファシリテーターとして運営をサポートした。講義では重松教授のほか、多種多様な職業や年齢のゲストスピーカーが登壇した。内容は、身体・感情・思考の関係を体感したり、社会と比較して自分の価値基準を考えたり、感情を4つに分けて理解したりなど、いろいろな角度から生徒が自分を客観的に見つめ直すもの。ワークショップなども交えたそれらのプログラムを通じて、生徒たちは日常の“当たり前”を見つめ直すと同時に、自分と向き合い、生きる意味を見いだす貴重な時間を過ごした。

「私たちが普段何気なく食べているものは、口に入るまでにさまざまな人を介しています。そういったことを絵に描きながら、自分たちが普段どれだけ社会に支えられているかを実感させるような内容が満載でした。われわれ教員も登壇者を知らされていなかったので、『次は誰だろう』と終始わくわくした気持ちでいました」(宇都宮先生)

事後アンケートでは、9割を超える生徒が「考えに変化があった」と回答。「胸を張ってやりたいことに挑戦しようと思った」「将来に希望を持てるようになった」など、ポジティブな回答がとても多かった。西村先生は「アンケート結果を見て、生徒に『今の自分を受け入れてあげよう』という気持ちが育まれたと実感します。また、それを踏まえて『なりたい自分になるには何をすればいいのか』を、集中して考えられたのではないでしょうか」と微笑む。先生方によると、プログラム終了後に感極まって泣き出す生徒が続出したそうだ。それほど、同プログラムが彼女たちの心に響くものだったというのが分かる。「まさに“大成功”を遂げられました」と、2人の先生は口を揃える。年度の節目で開催された同プログラムだったが、参加者は前向きな気持ちで新学期を迎えられたに違いない。

失敗と成功を繰り返して
大きな自信につなげてほしい
同校では多種多様なプログラムが数多く実施されているが、その一つひとつには教員の熱い思いが詰まっている。「今回のプログラムにも通じるテーマですが、生徒には、テストや授業、クラブ活動など身近なことばかりでなく、広い視野を持って『世界と自分はつながっているんだ』という意識を持ってもらいたいと願っています。また、プログラムを通じてさまざまな体験を積み重ね、自分で選択して答えを出せる人に成長していってほしいですね」と、西村先生は生徒への思いを話す。さらに宇都宮先生は「今、彼女たちが思い描く職業は、将来なくなっている可能性もあります。そうであれば、どんな環境でも生きていける人になってほしい。こうしたプログラムに積極的にチャレンジして、失敗と成功を繰り返しながら“自分は大丈夫”という自信をつけていってほしいと強く願っています。そして、日本人が持つ協調性を発揮して、問題をうまく解決するために周囲に和をもたらすような人にもなってほしいと心から思います」と、生徒への期待を語る。
最後に、同校を目指す受験生と保護者へ、それぞれの先生からメッセージが送られた。
「さまざまなことに挑戦して多くの失敗を経験しましょう。失敗は自分を大きく成長させます。多様な学びの機会がある本校で、行動力を思い切り発揮してください」(西村先生)
「受験を控えていると未来を見てしまいがちですが、大切なのは“今”を見ること。一瞬一瞬を大切にしながら毎日を過ごしてください。ぜひ、本校で私たちと共に、かけがえのない“今”を過ごしましょう」(宇都宮先生)
▼ プログラム「Finding Your Unique Purpose:Stanford Heartfulness」事後アンケート
- ・プログラムに参加する前は自分が望んでいる未来に対する不安を抱いていたが、今は胸を張って「これが私の希望だ」と言い切ることができる。自信を持てるようになった、というより、「私は私でいい」と自分を認められるようになったからだ。
- ・以前から将来についてよく考え、視野を狭めないようにしながら現在の進路を決めたつもりだったが、今回のプログラムに参加することで自分を制限してたことに気づき、自分について再考する良い機会となった。
- ・過去の自分よりも精神的に成長し、将来に対して前向きな考えを持てるようになった。「人生において変化は必然であり、失敗は成功につながる」という考え方があることを知り、「必ずしも正しさを求める必要はないのだ」と分かった。
- ・小さな失敗や悩みをずるずると引きずってしまうことが多かったり、将来が明るく見えなかったりすることが今まではよくあった。しかし、スティーブ・ジョブズの「点をつなげる」や、講演者の先生の“Keep Swimming”といった言葉にとても感銘を受け、「今はまだ分からないかもしれないけれど、後になって過去を振り返ってみたときに『良かったな』と思える日が来ると信じて生きていくことが大事なのだ」と気づくことができた。