私立中高一貫校

志(ゆめ)の実現のために
挑戦し続ける男子を育成

足立学園中学校・高等学校

心身ともに大きく成長する中学・高校時代。この時期をどう過ごしたかが、その後の人生の確かな礎となる。昭和4年(1929年)、地域の有志の方々の尽力により設立した足立学園は、創立以来「質実剛健 有為敢闘」を校訓に、独自の教育を展開してきた。同校が取り組んでいる「志共育」、そしてその一環と位置付けられている防災関連教育を中心に、同校の教育を紹介しよう。

瀬尾 匡範 校長

東日本大震災で深まった
「防災×志共育」プログラム

足立学園の建学の理念である校訓「質実剛健 有為敢闘」は、誠実でたくましく、優秀で社会の役に立ち、最後までやりとげる人材(人財)の育成を目指している。この校訓の中にある社会の役に立ち人類や社会に貢献する目標=志(ゆめ)との考えから、同校が取り組んでいるのが「志共育」だ。「私たちは、世のため人のために自分がすべき志(ゆめ)を持ち、その実現のためにどのような人生を歩めばよいか、そして今何をすべきかを考え行動できる生徒を育てたいと考えています。志実現に向かう途中には、大きな困難にぶつかることもあるでしょう。それでも諦めず、次の一歩を踏み出せる、挑戦し続ける男子へと育てるのが、志共育です」と瀬尾匡範校長は語る。

“志”は、教師が生徒へ教えるものではなく、生徒一人ひとりが自ら気づくもの。そのため志共育では、多くの体験学習を取り入れ、それぞれが“志”を考える一助にしている。その一つが「防災関連プログラム」だ。2011年の東日本大震災で、帰宅困難となった生徒約100名、さらに約200名の一般市民を受け入れた実体験をもとに、同校では「志共育」の一環として防災教育を位置づけ、災害対応力の育成だけでなく、「志を持ち、社会に貢献する人材」を育てるためのプログラムとして実践している。

単なる防災対策を超え、
生徒の人間力・社会貢献意識を育む多彩な防災プログラ

髙井 俊秀 副校長

では、実際の防災関連プログラムにはどんなものがあるのだろうか。
まず「自衛少年消防隊の活動」。全クラスから各1名の隊員を任命し、月1回、消防署員による消火訓練・避難訓練を行っている。また中学3年生と教職員の救命講習、年2回の全校防災訓練、高校での「防災アプリ制作」授業も実施。他にも教職員による自衛消防隊の活動、地域との協定・連携の締結も進めている。

一方、防災訓練の一つとして実施しているのが、中学生が参加する「強歩大会」だ。上級生と下級生の縦割り班ごとに荒川河川敷を中心に約33kmを歩く行事で、体力・持久力・自己管理能力が養われる。「完歩を目指す過程で、仲間との励まし合いや困難の共有が生まれ、人間関係の深まりと自己肯定感を高めることにつながります。病気や怪我で歩けない生徒も、飲料配布や空容器の回収などで参加し、『自分にできることを考える』志の実践を体験。震災にも役立つこの行事は、仲間との絆を育む本校の大事な行事になっています」(髙井俊秀副校長)

強歩大会の様子。1年生の荷物を上級生が持ち、励ましながら進む。

リアルな避難所生活を体験、
多くの“気づき”を得た防災キャンプ

同校では2025年から、高校1年の校外授業として防災キャンプを開始した。新潟県新発田市の協力のもと、市が推進する「スタディー・ツーリズム(学びの観光)」の一環として、農業体験や防災教育を組み合わせたプログラムに取り組んだのだ。

新発田市は中越地震や東日本大震災で被害を被った地域で、実際の避難所生活を模した体験ができるとともに、田植えなどの農業体験や歴史学習(ナゾトキ街歩き)なども組み込める多面的な学びの場。今回のキャンプは、さまざまな体験を通じて、現実的な課題に向き合う力を養えるよう構成された。この取り組みはNHKのニュースでも取り上げられ、教育的な意義が広く認知されるという思わぬ副産物もあったという。

生徒たちは段ボールベッドで宿泊するなどリアルな避難所生活の体験をした。

生徒たちは、2泊3日の日程で多くの“初めて”を体験した。

まず避難所生活のリアルな体験。段ボールベッドで宿泊し、非常食(カレー・乾パン)による食事を分け合ったり、水が使えない不衛生な環境を体感し、災害時の厳しさを実感した。また防災ワークショップとして、洪水発生時や南海トラフ地震を想定したグループ討議や、避難所運営の課題や対応策を話し合ったり、「新聞紙でスリッパを作る」「毛布を使った担架の作成」「段ボールベッドの組み立て」「足立区のハザードマップの読み方の学習」を行ったりするなど、防災技術も修得。さらに田植え体験を通して、自然の恵みや地域とのつながりを学ぶ機会にも恵まれた。

防災キャンプでは避難生活の体験だけではなく防災技術も身につけられる。

実践・体験を通して自らの志に気づくことが
自発的な学びや成長につながる

「防災キャンプでの生徒たちの体験は、まさに“生きる力”を実感する濃密な2泊3日でした。避難所生活を模した環境の中で、実践的な防災教育を受けられましたし、不便さの中で協力し、考え、行動することで志・共助・自立を育てる教育活動になったと感じています」と話す髙井副校長は、生徒たちの目に見える成長と内面的な変化を強く感じたそうだ。「特に“自分の命を守る力”だけでなく、“他者を思いやる心”や“社会に貢献する意識”が芽生えたことが、教育的にも大きな成果です」

 実際、体験後の生徒たちの感想を見ると、「災害はいつでも起こる」「自分が守られるだけでなく、誰かを守る立場にもなる」という認識が深まったことがうかがえる。また避難所生活の不便さを体験し、「災害時に本当に必要なものは何か」を考えるようになったし、グループ討議や避難所運営の模擬体験を通じて、「自分の意見を持ち、仲間と協力して課題を解決する力」が育まれたようだ。ほかにも「自分が動かなければ何も始まらない」という責任感が芽生えたという声も聞かれたという。

自衛消防隊合同訓練の様子。地域の消防署と連携しつつ、定期的に訓練を受ける。
防災訓練の様子。自衛少年消防隊員が先頭で避難訓練。教職員は最後尾につく。

また、不便な環境での共同生活を通じて、仲間の体調や気持ちに気を配る姿勢が自然と生まれたことや、「誰かが困っていたら助けたい」「自分ができることを探したい」という志的な行動が見られたこと、田植え体験を通じて、自然の恵みや地域の人々の暮らしへの理解が深まり、「食べ物があることのありがたさ」を実感したこと、地元の方々との交流を通じて、「地域とつながることの大切さ」を学んだことなど、多くの学びが見受けられたという。

田植え体験で自然の恵みや地域とのつながりを学ぶ。

一方で、初めての避難生活では「眠れない」「不衛生でつらい」など戸惑う生徒も。また2泊3日の中で防災・農業・歴史学習を詰め込んだため、体力的に厳しいという意見もあった。

「こうした反省点から、精神的なケアや事前の心構えづくり、またプログラムのバランスや休息時間の確保など、今後の課題もたくさん見つかりました。また学びを深めるために、レポート提出やグループ発表など、学びの定着を図る工夫も必要です。見つかった課題を一つひとつ検討・解決して、よりよいプログラムにしていきたいと思っています」と髙井副校長は語る。実体験を通してさまざまな気づきに出合い、自らの志を得ていく生徒たち。彼らの志が、今後どんな未来につながるのか楽しみだ。