WILLナビDUALアーカイブ 私立中高一貫校

平和をつくる女性を育む、「伝える教育」

恵泉女学園中学・高等学校

恵泉女学園中学・高等学校は、1929年に創立されたキリスト教の信仰に基づいた中高一貫校だ。創立当初から「聖書」「国際」「園芸」を教育の柱として、「主体性」「多様性」「協働性」を育み、みずから考え、発信する力を養ってきた。21世紀を生きるために必要な力の育成に早くから取り組んできた同校の理念や教育の内容などについて、校長の加藤英明先生に聞いた。

木のぬくもり溢れるメディアセンター。
約9万冊の図書が閲覧できる生徒の自立的学習の場だ

3つの柱「聖書」「国際」「園芸」。感話では自分の考えを語る

同校は1929年に、教育者・河井道が「平和をつくり出す女性を育てたい」という願いを込めて創立した。自身は21歳でアメリカに渡り、日本の女性代表としてさまざまな国際会議に出席。その経験から「女性が世界情勢に関心を持たない限り、戦争はなくならない」と、世界に心を開くよう、若い頃から教育する必要があると考えるようになったことが創立のきっかけである。

キリスト教の教えに基づき、創立した当初から教育の礎としているのが、「聖書」「国際」「園芸」の三つ。6年間を通じた「聖書」の学びは、自分自身を見つめるための大きな糧となる。恵泉の象徴ともいえる、毎朝の礼拝の際に行われる「感話」はその最たるものだ。自分が感じていること、考えていることを原稿用紙にまとめ、年に3回、ほかの生徒の前で語る。教員も礼拝で自分の考えを話すので、「自分の考えをみんなの前でオープンにしてよい」という環境ができている。加藤先生は、「感話で悩み事や少し深刻な内容を聞いても、その子のことを話の印象で見ないのも、恵泉の生徒のすばらしいところだと思います」と話す。

「国際」では、世界に心を開くことを学ぶ。グローバル化・多様化が進む社会においては、「個」を大切にしながら、相手の存在を認め、価値観を理解し、受け止めることが重要になる。「互いに『あなたはどう思う?』という問いを投げ掛け合い、その中で一つの意思決定ができるということが国際平和につながっていくと考えています」(加藤先生)

また「園芸」では、命のすばらしさを体感する。現在は校内と近隣の畑で、草花や野菜を栽培。生徒は種まきから収穫・加工・調理までを行い、自然の豊かさや時間をかけて育てることの大切さを理解していく。

自分が感じていることなどを年に3回、ほかの生徒の前で語る「感話」
園芸の授業

探究実験などで「考える」恵泉と、発信を重視した「英語」の恵泉

同校のめざす教育を示す標語に、「考える恵泉」「英語の恵泉」の二つがある。「考える恵泉」の代表的なものは、理科の探究実験。6~7人のグループでテーマを設定し、仮説を立て、それが正しいかどうかを実験して調べる。昨年は「効率の良いカイロを作る」「雪の結晶を作る」などのテーマがあったそうだ。また、英語では少人数制の授業で、4技能をバランス良く伸ばす。「英語で発信できることをめざして、スピーチコンテストやエッセイなどにも挑戦しています」とのことである。

進路指導では、「生徒の志望を尊重する」という方針を貫いている。これについて加藤先生は次のように話す。

「生徒もネームバリューにとらわれるのではなく、自分のしたいことを叶えられる大学や学部を見つけようとしています。そんな生徒たちをサポートするために、6年生では年に4~6回の個人面談を実施して、一人ひとりに適した情報を与えることを心がけています」

英語のディベート入賞者が招待されたアメリカ大使館にて

サーバントリーダーとして平和をつくる一員に

学校行事で恵泉らしいものは、2年生の「清里ファームワーク」だろう。生徒たちは朝5時に起きて牛を放牧し、牛舎の掃除をする。最初は「嫌だ」と言っていた生徒も、牛と接するうちに積極的に世話をするようになるという。その牛の排泄物でたい肥を作り、学校の畑で使用している。

また、6年生の夏に伊豆の天城山荘で行われる「修養会」では、恵泉での6年間を見つめ直し、自分の将来について考える。勉強道具を持たずに出掛け、友だちと語り合う。ここでしっかりと自分を振り返ることができると、その後の受験勉強に集中できるのだそうだ。

最後に、加藤先生は、受験生と保護者に向けて次のようなメッセージを送ってくれた。

「本校でぜひ、『平和をつくる女性』になってほしいと思っています。恵泉の校歌にある『友なき人の友となりつつ 沙漠に花を咲かしめなんと』という歌詞のように、他者に仕えるサーバントリーダーになることを期待しています。恵泉では、創立時からずっと、『人から人へ伝える』という本当の教育を実践しています。実際に学校説明会や恵泉デーに訪れて、その雰囲気を肌で感じていただきたいと思います」

自然と触れ合う2年生の「清里ファームワーク」

卒業生インタビュー

個性的な友だちに囲まれ、自分が本当にやりたいことを見つけられました
森 文実さん(東京大学 文学部歴史文化学科4年・2014年3月卒業)

母と二つ年上の姉が恵泉の卒業生で、わたしは小学校低学年のころから文化祭などに行っていました。明るく自由で活発な雰囲気がいいなと思いましたが、入学してみてもそのとおりで、個性的な友だちが多かったですね。それぞれ独自の世界を持っている一方で、お互い心を開いて話せる存在でもあり、居心地の良い環境でした。

6年間を通じて力を入れていたのは、課外活動のハンドベルです。担当する音がそれぞれ決まっているので、1人欠けても曲が成り立たず、練習するのが困難になります。時には意見が分かれることもありましたが、みんなで一つのものを作り上げる達成感も味わえました。

恵泉では文章を書くことはもちろん、友だちが書いた文章を読む機会も多かったので、それに影響を受けることもありました。感話では個人的に抱えている悩みを話す友だちもいて、ふだんは踏み込めない内面に触れたことが貴重な経験になりました。

卒業後の進路を決めるまでには葛藤がありました。当初は理系の学部へ進学するつもりで、現役時には理系の学部を受験しました。しかし国語や日本史の授業を受ける中で芽生えた日本の近代史を学びたいという思いがあり、悩んでいました。5・6年時の担任の先生に相談したところ、「自分の選択は、その後にどういう行動をするかで決まるものだから、後悔しないようにするべき」ということばを頂いたことで、浪人して文学部を受験する決心がつきました。恵泉の先生方は、常に生徒が何をしたいのかを一番に考えて、アドバイスをしてくれます。

恵泉で出会った先生や友だちは、一生付き合うことができ、何かあっても助け合えるかけがえのない仲間です。皆さんにも、恵泉で自分に合った道を見つけてほしいと思います。