学びのすべてがそろう、「幕の内弁当」のような学校に
鷗友学園は、どんな学校なのか。そう聞かれたときにわかりやすく答えるため、同校では今年度から「幕の内弁当」という一風変わったキーワードを使って学校の魅力を紹介している。「英語や数学の勉強だけでなく、運動会や学園祭、部活動、校外学習、友人とのおしゃべりまで、いろいろなものが入っていて、そのどれもがおいしい。鷗友学園の学びは、そんな幕の内弁当に似ていると思い当たったのがきっかけです」と校長の大井正智先生は話す。
目指すのは、グローバルやICTなど一つの分野に特化した教育ではなく、「何でもある、全部がそろっている学校」だ。「学校生活のすべてを大切にした、日本一学校らしい学校にしたいと考えています」と大井先生。最高の食材を使って、一つひとつていねい仕上げた弁当の中身をまずは全部食べてみて、自分の好きなことややりたいことを見つけてほしいと願う。色とりどりでバランスが良く、栄養満点の学びが詰まっている幕の内弁当。それが鷗友学園の6年間といえそうだ。
ICTの活用で、休校中もカリキュラム通りに授業を実施
とはいえ、新型コロナウイルス感染症の拡大による休校要請で、同校も3月初めから休校が続いた。通常の活動が一切できない状態で新年度を迎え、中学入学式、高校進学式、前期始業式はすべてオンライン配信で実施。その後、授業もオンラインでスタートする。「どんな状況でも学びを止めるわけにはいかないと、まずは1日3時間の授業から始めました」と大井先生は振り返る。オンライン上でクラス開きも行い、生徒たちは新しいクラスメートとの交流を深めた。
5月の連休明けからは学年単位で時間割を編成し、月曜から金曜は6時間、土曜は4時間のオンライン授業に切り替えた。各家庭の通信環境を考慮するなど、きめ細かなガイドラインを作成してオンライン授業を展開。「双方向にしたり、動画配信にしたり、課題を与えて提出させたりと、教科や単元によって授業のスタイルはさまざま。教員がそれぞれに工夫して進めました」
早くからオンライン授業を展開したことで、カリキュラムの遅れはほとんど出ていない。「シラバスどおりに時間割を組めたのが大きい。高2・3の生徒には、8月の前期終了後に1週間程度の補習を行う予定ですが、大学受験を控える高3生にしても特に心配ないと考えています」。オンラインでの教育活動がスムーズにできた背景には、ICT化を積極的に推進してきたことがある。5年前に全教室にプロジェクターを設置し、翌年には校内をWi-Fi化。中学生は学校が貸与するタブレット端末を学習に生かす一方、高校生には各自が所有する端末として授業で使うBYOD(Bring Your Own Device)を導入し、自分のスマートフォンやノートパソコンを学校に持参して活用していた。そのため、休校直後の春休み(3月)から高2・3の生徒には補習を含めたオンライン授業を先行実施することができた。「今回の休校期間中は、BYODをはじめ、ICT教育に力を入れていたことが本当に役立ちました」。大井先生はそう実感している。
思いがけない経験を新たな挑戦へのチャンスに
休校中に授業が行われたのは、主要教科だけではない。たとえば、校内の実習園で野菜作りや花作りに取り組む園芸の授業では、土の入った植木鉢や植物の種を送って自宅で育ててもらう方法で土と親しむ時間を提供した。聖書の授業もオンラインで行った。動画を配信する場合は、生徒一人ひとりの顔を思い浮かべながら授業をつくり上げていったと言う。
「最初は生徒から、黒板が小さい、画面が見えづらいといった問題点も寄せられました。それを一つずつ改善しながら、より良いオンライン授業をめざしました。生徒も教員も初めての経験でしたが、同じやるならいいものにしていこうという思いがお互いにあったと思います」。生徒から先生へメッセージが届いたり、質問をみんなで共有する仕組みを作ったり、オンラインならではのメリットも発見できたそうだ。「大きな経験でした。大変だった分、今後たとえコロナの第2波、第3波が来ても大丈夫という手応えを感じています」と大井先生は自信を見せる。
長い休校期間を経て、6月からは分散登校がスタートした。「やはりみんなで顔を合わせてこその学校生活。中止になった行事も多いですが、学園祭はどうしてもやりたいと、高2生が中心になって準備を進めているところです」。オンラインがメインの学園祭になりそうだが、“新学園祭”という形での開催をめざしている。「生徒たちは今までにない学園祭をつくると意気込んでいます。私たちも今回の経験を新しい世界を切り開くチャンスと前向きにとらえています」
主体的に学んで自己肯定感を育む教育は、進化を続ける
同校の教育を象徴するアクティブラーニングも、学校再開によって再び本格化している。先生が教え込むのではなく、生徒が中心になって主体的、能動的に学ぶアクティブラーニング型の授業は、80年以上前の創立時から受け継がれてきた。また、ICTの活用はアクティブラーニングをさらに進化させるために始まった。すべての学びに必要な主体性を育てるため、仲間づくりにも力を入れる。中1で3日に1度の席替えを行うのもそのため。多くの人とコミュニケーションを取ることが、互いに認め合い、自己肯定感を育てることにつながっていくからだ。
学習の達成度を数段階に分けて評価するルーブリックの導入も、主体的な学びを後押しする。アメリカの大学で始まったルーブリックは、何ができるようになったかを具体的に表す評価法で、6年間の学びの成果が実感できる仕組みになっている。今年度からの新学習指導要領に加わった中学校でのオールイングリッシュの授業も、同校では15年も前から実践してきた。「英語を英語で理解する」ことを目標に、入学直後の中1から英語の授業はすべて英語で行われている。鷗友学園のこうした学びは、今後もさらに進化していくだろう。
最後に、大井先生は受験生に向けて次のようなメッセージを寄せてくれた。「例年であれば、ぜひ学校に来てくださいと呼び掛けるのですが、今年はそれができません。オンラインの説明会を開催しているので、ぜひそこで学校の情報をつかんでほしい。大変な状況ですが、目標を持って受験勉強をがんばってください」。併せて、「鷗友学園の入試は記述式問題が多くあります。皆さんが持っている力をきちんと見ますので、どの教科もしっかり書いてください。たとえ答えが間違っていても、考え方が合っていれば加点します。たくさんの△を集めてもらえればと思います」と受験に際してのアドバイスを送ってくれた。