グローバルな学びの現場での「化学反応」が、模擬国連国際大会での快挙に
海城は、創立100周年を迎えた翌年の1992年から現在まで、立ち止まることなく大規模な学校改革を推し進めている。その柱は、課題設定・解決能力である「新しい学力」とコミュニケーション、コラボレーション能力や創造力である「新しい人間力」の育成にある。
その「新しい学力」を育むために導入されたのが、社会科の探究型総合学習と理科の実験、観察など生徒参加型の授業だ。また、「新しい人間力」では、「冒険」を通して共生、協働の力を養う体験学習プログラム「プロジェクトアドベンチャー」(以下PA)や、演劇の手法を用いて想像力や対話的コミュニケーションを学ぶ「ドラマエデュケーション」(以下DE)を体験する。この二つの力を養うことで、新時代を生き抜く力の源を養うのである。
さらに、社会のグローバル化に呼応するように、2011年からは30名の帰国生の募集を開始。「価値観が多様化している現代社会においては、他者と阿吽の呼吸でわかりあうことは簡単ではありません。いかに共生するか、いかにお互いのよいところを引き出すか、いかに協働して高いパフォーマンスを生むかが求められるのです。本校では、こうしたスキルをクラスメートである帰国生と共に、体験学習などを通して学びます。帰国生の個性や自由闊達な主張、世界に向けた視野に、一般の生徒も大いに刺激を受けて互いに高めあう関係性が築かれています」と、語るのは校長特別補佐の中田大成教諭だ。
帰国生の受け入れは、生徒の「化学反応」を誘発し、高校模擬国連や英語のディベートに挑戦するグローバル部が発足。国内大会で少しずつ結果を残すようになると、2017年には、ニューヨークで行われる世界23か国1500人が参加する高校模擬国連国際大会への切符を獲得。翌年の世界大会では、なんと日本からは二組目、男子生徒としては初の優秀大使(事務総長賞)にも選出された。
「2020年も国際大会へと駒を進める権利を得ていましたが、残念ながら大会は中止になってしまいました。しかし、模擬国連という世界レベルの英知が求められる場に、コンスタントに出場できるように成長したのは、たのもしいかぎりです」(中田教諭)
異なった生活体験を持つ生徒が集うことで生まれる多様性が、いい意味での「化学反応」につながっているのだ。
未曾有の事態でも、学びを止めない仕組み
また本校では、2015年から2年かけてICT教育部(校務分掌組織)を設置。全教室にICTインフラを整え、ICT教育に力を入れてきたが、この取り組みは、新型コロナウイルス感染の広がりによる長期休校でも、大きな力を発揮した。
早々に立ち上げられた対策チームを中心に、4月14日からはインターネットを介した遠隔学習指導を開始。「一方向資料配信型」から「双方向資料配信・受信型」、「双方向ライブ(オンライン)型」と3段階のステップを踏み、通常の課程にほぼ遅れることなく授業は進められた。
オンラインでのHRや個人面談も行い、生徒の不安の解消にも努めたほか、特に受験を控えた高3生に向けては、数学などで正規の授業以外に文理共通の入試で特に重要なトピックを解説するワンポイント講座もアップ。その内容は「これこそが、本校の宝」と中田教諭が力を込める質の高いものであった。
「本校の強みは、非常事態にあっても組織的に高いパフォーマンスを発揮できる教員集団にあります。どんな事態になっても、力を合わせて対応できる適応力と同僚性が組織に備わっているのです」(中田教諭)
この取り組みは、遠隔学習指導レポートとしてホームページにアップされているので、ぜひ一読をおすすめする。
中高時代に体験するべきは、「学ぶことが楽しくてしかたない」という原体験
さらに本校が、ICT教育と共に力を注いできたのが2017年にスタートした文理を融合した「特別講座KSプロジェクト」だ。一つのテーマに特化して、それに興味関心のある生徒が学年の枠を超えて集まって、とことん探求していこうというもので、社会科や理科の探求学習をさらに進化させた、なんとも魅力的な取り組みだ。講座のテーマは、プログラミングや英字新聞制作、SDGs、ジェンダーなど多彩。いずれの講座も、生徒の興味関心をより研ぎ澄ます深い学びであり、社会に開かれたオープンな学びであることを特徴としている。講座のねらいについて中田教諭は、「変化の激しい現代社会では、生涯、学び続ける姿勢が欠かせないのです。学ぶことが楽しくてしかたないという原体験を、中高生時代に経験することが、そうした姿勢を育てるのだと確信しています」と語る。
また、こうした上質な学びが実現できる背景には、教員自身が知的な楽しみを熟知していることがあると言及する。
「本校の教員は、ほとんどが大学・大学院でアカデミックな経験を積んできています。生徒からすると、先生たちは自分たちの知らない楽しみを知っている、すごそうだ、自分もその世界をのぞいてみたい、やってみたいと、知らず知らずのうちに感化されていきます。そういう意味では、本校の教師は生徒のメンターといえるでしょう」(中田教諭)
生徒は、教師がまく知的なえさに動機づけられ、学びの本来のおもしろさや創造的な知の世界に目覚めていくというわけだ。
世界を視野に活躍する、真のリーダー育成のための知のゆりかごとして
総じて受け身な子どもが増えていると指摘される昨今だが、生徒たちの表情を見ると一様に明るく、伸び伸びしている印象だ。「うちの生徒たちは、元気すぎるくらいです。でも、じつは入学したての頃の彼らは、今のような姿ではありません。そうした子どもたちをリフレッシュさせて、能動的で自立した、依存心のない、積極的に未知のものに挑戦する力を持った人間に育てるのが、私たちのミッションです」と、中田教諭は力を込める。
「新しい学力」と「新しい人間力」を両輪に、創造的で豊かな学びをエンジンにして、さらに教師というメンターを道しるべに羽ばたく子どもたち。海城の知のゆりかごとしての実践は、ハーバード大学に進学する生徒を生み出すなど、世界を視野に活躍するグローバル時代の真のリーダー育成に確実に寄与している。