チームの力を結集しロボット競技大会に挑む
普連土学園には特色ある課外活動がたくさんあるが、今回紹介するのは、電子工作やプログラミング、ロボット作製などを行う「フレンズ・ファブ(Friends Fab)」。中学3年から高校2年までの希望者が、放課後や土曜日、長期休暇に自主的に集まってLEGOやMINDSTORM、3Dプリンターなどを駆使してもの作りを行う教養講座として位置づけられている。そこで行われる活動の一環として、生徒たちは毎年FIRST LEGO LEAGUE(FLL)に参加する。
FLLは、ロボット競技と3種類のプレゼンテーション(「ロボットデザイン」「プロジェクト」「コアバリュー」)の総合点を争う大会で、地区大会を勝ち抜き、日本大会で3位に入ると、世界大会への参加権が得られる。2018-2019シーズンの大会で普連土学園のチームFriends Fabは全国3位となり、5月末にトルコで行われるFLL世界大会への出場を決めた。
世界に挑戦するのは、石井雅夕さん、大津柚稀乃さん、鈴木絢子さん、徳永彩乃さんの4人(五十音順)。いずれも高校2年で、中学3年からプログラミングの基礎など学びながら、高校1年のときにFLLに挑戦するチームを結成した。それぞれ別々の部活に所属しているため、全員で集まることのできる時間が少ないなかで勝ち取ったチャンスであり、世界大会に向けて最後の調整を行う日々が続いている。
担当は決めるがプレゼンテーションは全員で
FLLは、ロボット競技での勝ち負けを競うことを目的とはしていない。メンバー一人ひとりの思考力や科学的な見方を養い、チームでの問題解決力を身につけること、そしてそれを他のチームと共有することに価値をおいており、ロボット競技はその一部でしかない。
FLLの今シーズンのテーマは「宇宙」だ。ロボット競技では、物資や宇宙飛行士の輸送、資源探査などのミッションが与えられ、決められたフィールドの中で自分たちがプログラムした自律型ロボットを動かし、正確にミッションをこなして点数を積み上げていくことが求められる。
「ロボットデザイン」担当の鈴木さんは「ロボットにどんな動きをさせればいいのか、そのアイデアを考えるのが大変でした。何度も試行錯誤しながら、ここまできたという感じです」と振り返る。一緒に担当する今井さんも「充電池の容量が減ると動作が変化するし、各種センサーの感度も変わります。そうした微調整を繰り返しながら制御していく苦労があります」と語る。「ロボットデザイン」のプレゼンテーションでは、そうした工夫を発表することになる。
「プロジェクト」には、「長期宇宙探索での問題を解決する」というサブテーマが与えられている。担当する大津さんは、ISSで使われる爪切りの改良をプロジェクトテーマに選んだ。宇宙空間では切った爪が浮遊すると危険だからだ。「文献を調べ、大学の研究者にアイデアをもらい、製造可能かどうか企業に問い合わせるなど、普通の高校生活では味わえない体験をしました」と話す。
徳永さんは「コアバリュー」担当だ。これは活動の過程で生じた問題に対してチームでどう向き合い、どのように解決してきたかを総括する、いわばFLLの核心部分ともいえるプレゼンテーションだ。「ただ、私たちは4人ともすごく仲が良くて、あまり問題も起きなかったため、ささいなけんかをすごく大きな問題のように見せなければなりませんでした」と笑う。
3種類のプレゼンテーションは、担当者が準備するものの、プレゼンテーション自体は全員で行うことになっている。しかも世界大会ではすべて英語だ。想定される質疑応答も含めて、何度も原稿を書き直し、練習を重ねて英語でのプレゼンテーションに臨むことになる。
活動を通して精神的に強くなった
秋にFLLにエントリーし、12月の東日本大会、2月の日本大会で高成績を残してきた。各自が忙しいなかで時間を合わせて協力してきた成果であり、この活動を通して、それぞれが成長を実感している。
「私は本来人見知りで、人前で話したりすることはあまり得意ではありません。しかし、大勢の前でプレゼンテーションを行ったり、その原稿を書くために、メンバー全員の長所を探したりしたことで、人前で話すこともできるようになりましたし、コミュニケーション力もついたと思います。他チームとの交流会で友だちもでき、人とのつながりの輪も広げることができました」と話すのは徳永さんだ。
大津さんは「最初は、高校生だから喜んで協力してくれるだろうと安易に考えていましたが、現実は厳しく,世界大会への参加が決まるまではほとんど協力してもらえない状況でした。全く相手にしてくれない発言に傷ついたこともありました。しかし、おかげで必ず読んで返事をしてくれるメールの書き方や、一度でも返信をくれた方をつなぎ止めておく方法など、社会人になってから役立つことも学べました」と貴重な体験を話す。
ロボット担当の二人はメンタルが強くなったと口を揃える。鈴木さんは「家に持ち帰って動作を検証しなければならないことがしばしばあり、かさばるロボットアームを持ち帰るのですが、混んだ電車で嫌な顔をされ、困っていても助けてくれないこともしばしば。苦労して組んだプログラミングデータが一瞬で消え、最初から組み直さなければならないことが何度もありましたし、メンタルは鍛えられました」という。
「人にぶつかって壊れたこともありましたし…」とうなずく石井さん。「勉強と部活と習い事とFriends Fabの4つを両立させるのが大変で、どうしても睡眠時間を削らなくてはなりません。定期テストの際も、眠いのを我慢して一週間前から集中的に勉強せざるをえなかったのですが、時間管理がうまくなり、精神的に強くなったと思いますし、進路意識も高まりました」とも話す。
目標は1位。ブース賞も狙う
取材に訪れたのは、世界大会の2週間前。全員でピンクの折り紙を折っていた。聞けば世界大会でのブースの飾りつけのためだという。ブースというのは、大会期間中のチームの居場所だ。ロボット競技中は2人しかフィールドに近づくことができず、他のメンバーはブースで後方支援にあたる。このブースが自分たちのチームの特長がよく表れるように表現されていると「ブース賞」が与えられる。東日本大会、日本大会では、目の前の課題に取り組むことに一生懸命で、ブースに気を配る余裕がなかったため、「今回はブース賞をぜひ狙いたい」と4人は口を揃える。世界大会での目標を聞くと、ズバリ「総合1位」とのこと。とはいえ、各国のチームとの交流が最大の目的の大会でもあり、楽しみながら参加してきたいとも話してくれた。
ちなみに、顧問の教員は、FLLの事務手続き等の窓口にはなるものの、生徒の主体性を大切にし、あくまで後方支援に徹している。今回のチームは文系、理系2人ずつの混成メンバーで、すべて自分たちで考え、協力しながらチームワークを強固にしてきた。どんな結果になろうと、きっと笑顔で帰国してくれるに違いない。