調べ学習スペースを活用したアクティブ・ラーニング
「はい、始めますよー」。先生が声かけしてもしばらくザワザワする、図書館の調べ学習スペース。10グループに分かれて座っているのは、入学したばかりの中学1年生だ。にぎやかなのも無理はない。
「配布した水色のファイルの上段に、『情報リテラシー』、下の段にクラスと名前を書いてください。終わった人は私とアイコンタクトしてください」。1年次クラスにとって2回目の「情報リテラシー」の授業で指導にあたるのは、司書教諭の多田明子先生だ。最初に目立ったおしゃべりも、書き終えてアイコンタクトをする頃には集中して静まりかえっている。
授業の始まりには本の紹介をする。この日は、『復讐プランナー』(あさのあつこ作)だ。「センセーショナルなタイトルだけど、主人公はみんなと同じ中1で、男の子。クラスの人気者からいじめを受けていることを図書委員会の先輩に相談します。すると、先輩が『復讐しよう』と言います。みんなが同じ目に合ったらどうするかな? 作者のあさのあつこさんは、また授業で出てくるかもしれないので、覚えておいてくださいね」。中1生にとって身近なテーマの著作を、わかりやすく興味がわくように紹介する。
この日のテーマは前の授業の続きとなる「図書館を上手に利用するために②」だ。授業に入る前に、前回学んだことの復習を行う。「本を探すために必要な3つのことって何だったかな?」。まだ自信なさげな声が、「著書名」「著者名」「発行元」と進むにつれて、ますます小さくなっていくが、多田先生が明るい声でリードする。「2回目の今日は、本の分類について学びます」
検索時に必要な知識として、日本の図書館で使われている図書分類法「日本十進分類法」について説明する多田先生。図書館の本に貼られた「請求番号」のシールに記された数字やカタカナの意味を理解するためだ。これを知っていると、欲しい本がどこにあるかがすぐにわかるようになる。
一通り説明した後、多田先生は「クイズをしてみましょう」と、グループワークを課す。あらかじめ用意した書籍10冊を、「日本十進分類法」に従って分類するのだ。書籍はグループごとに違う。生徒が関心をもつようなものや話題のものなど、司書教諭がよく吟味して選んでいる。決められた時間で終わらせるには協力し合わなければならないため、互いに声をかけ合いながらプリントに記入していく生徒たち。分類後は答え合わせをして、プリントを提出して終了。本の好きな生徒も、そうでない生徒も関心がもてるアクティブ・ラーニングを取り入れた内容だ。
授業を終えた生徒は「おもしろかった!」とクイズ形式の授業に満足した様子だ。一方、次の授業に訪れた2年生に同じように「情報リテラシー」の感想を聞くと、「2年次の調べ学習は少し難しくなりましたが、1年次に習った調べ方を活用しています」「それまでは、わからないことはすぐにネットで検索していましたが、今は本で調べるようになりました」と大きな成長がうかがえた。
「調べる」「書く」の技能だけでなく人生を豊かにするための学び
1926年創立という歴史をもつ国府台女子学院だが、2011年に竣工した新校舎の中心に位置する図書館が話題となっている。この図書館を目当てに同校を志望する受験生も少なくない。正面玄関に面し、ガラス張りのまるでテラスのような明るい空間に、蔵書約5万3700冊が並ぶ。古い貴重な書籍にも直に触れてほしいという思いから、破損しやすいもの以外はすべての蔵書を開架とする方針だ。ドアで仕切られた自習室とは別に、理系と文系に分けて書籍を集めた調べ学習スペースが設置されているのも魅力に拍車をかける。
そんな調べ学習スペースで行っている授業「情報リテラシー」の前身は、国語の一部として行っていた「読書指導」で、その始まりは50年前に遡る。読書力や読解力を養うために自由読書や課題図書の設定などを取り入れた授業を行ってきた。転換したきっかけは、新図書館の誕生だった。移設を機に、飛躍的に整えられた蔵書のデータベースを使い、中学3年間の総合学習の一環として「調べ学習」の充実を図ることになったのだ。
「中1はこの後、検索端末の使い方を伝え、2学期には簡単な調べ学習をグループで行い、3学期にはビブリオバトルをします」と多田先生。
司書教諭だけでなく、学科の先生も参加するチーム・ティーチングも特徴的で、社会的な課題について調べ学習を行う中2の指導は、学科の教員が指導にあたる。2020年度の教育改革も念頭に、論理的思考を鍛えながら小論文対策として文章力を磨くことが目標だ。
中3は調べ学習の集大成として、一人ひとりテーマを設定し、レポートを書く。昨年度は「ペットの殺処分」「海のプラスチックゴミ」「子どもの貧困」など国内外の様々な問題に焦点があてられた。デモンストレーションとして、多田先生は自分自身も課題を設定してレポートを書く。「私は『子ども食堂』について調べ、見本として提示しました。こういうふうに書けばいいんだなというのが伝わったと思います」。生徒たちは実際に調べる過程で、自分自身の関心事を再確認できるという。
レポート用紙2枚以上が課されるが、中には15枚以上書いてくる生徒もいるそうだ。「レポートは、3人のクラスメイトが読み、それぞれコメントペーパーを書きます。生徒が指導する側になることは貴重な経験です。なぜなら、誤字脱字のチェック以外に、ニュースソースの選び方など論文を書く際のルールを理解していないと、人の論文を評価することができないからです。それに、クラスメイトが、こういうことに興味をもっているんだということがわかり、視野も広がります」
しかしながら「情報リテラシー」のもっとも大きな目標は「卒業後も図書館のよい利用者となること」だという。「自分にとっての課題や疑問を、自分で調べて解決することで、人生をより豊かに充実させてほしいと思います。図書館を身近に感じ、まわりにある素敵な図書館を存分に利用してくれれば」と多田先生。入学時に、多くの先生たちによる推薦本を紹介した冊子『本の世界へ』を配布するのも、より多くの本と出合ってほしいからだ。「調べる」「書く」などの技能の先にある、生徒一人ひとりの人生に配慮した教育が行われていることは間違いない。