コロナ禍でもびくともしないICT先進校
全国の学校を激震させたコロナ禍における休校要請。とりわけ、2月に入試を終え、春からの新生活を心待ちにしていた新1年生にとっては、大変なショックだったであろう。生徒の安全を第一に、日大豊山においても約3ヶ月間、休校措置がとられたが、保護者にとって心強かったのは予てより先進的なICT教育が導入されていたことだ。生徒全員にiPadが支給される同校の方針は、新入生にも即座に適用され、オンライン授業をすぐにスタートすることができた。
「日本大学がライセンス契約しているGoogleの“Classroom” を利用した双方向性授業をスムーズに導入できたのは、付属校ゆえの利点です」。そう語るのは広報主任・田中正勝先生だ。
オンライン授業は新しい学びの価値も生み出した。たとえば田中先生の受け持つ書道では、クラウド上に作品の提出箱を設けた。課題は一人1作品だが、オンライン上の気軽さからか何枚も提出する生徒や、自粛生活で家族と過ごす時間が多いため、中には保護者の作品を一緒に送ってくる生徒もいたそうだ。田中先生はすべてを受け入れた。
「学校では自分を表現することが苦手でも、オンラインではうまく表現できる生徒も。これは大きな発見でした。もちろん課題を提出しない生徒もいます。その場合は、個別に手紙を送り、コミュニケーションをとるようにしました。一つのコンテンツでも生徒の関わり方は千差万別で、それに対して教員がどのように対応するかが重要です。ただ、オンライン授業にメリットがあっても、すべて通信教育にすればよいのかと言えば、そんなことはありません。学校の真価はリアルな体験にあり、6年間の集団生活の中で“密”になって何を学ぶのかが大切です」
個性輝く多様性の中にある「男子力」
集団生活での学びの核となるのは人とのつながりだ。とりわけ男子校であることを成長の原動力とするのが同校の特徴である。異性の目を気にせずに男子らしいペースで個性をのばし、「男子力」を身に付けさせる。「共学には共学のよさがありますが、刷り込まれた男女の役割分担をしてしまいがちです。しかし、男子校ではすべて男子が行い、ジェンダーに左右されることがありません。また、多感な時期に異性を意識しなくてよい環境で、仲間を作りながらのびのびと部活や勉強に取り組むことができるため、みんな好きなことをとことん追究しています」
思春期にはぶっきらぼうになる男子に、保護者、とりわけ母親は不安になりがちだが、田中先生は「本校の生徒は優しく育ちます。6年間で最後のお弁当の日、きれいに洗った弁当箱に感謝の手紙が入っている、そんな嬉しい報告も保護者の方からありました」
他者への気遣いは、街でも見られる。「公園に落ちている割れガラスを、危険だからと拾い集めていた」「転倒した女性を介助した」など学校に連絡が来ることが少なくない。こうした生徒の行いには、学校長より「善行賞」が贈られる。周囲に認められる機会は、生徒への励みとなる同時に、自信をつけさせる。
「オリンピック候補になるスポーツ選手のイメージが強い本校ですが、実は体育系だけではなく、日常的に善行を行う生徒をはじめ、鉄道部や理科部など文化系でも輝いている生徒はたくさんいます」と田中先生。同校の「男子力」とは従来の「男らしさ」ではなく、一人ひとりが自分の個性を輝かせる多様性の中に見出すものを指している。
進路選択を多様にする教育と高大連携
同校の大きな魅力のひとつとして、日本大学との高大連携は欠かせない。日本大学は16学部87学科を有する日本屈指の総合大学であり、生徒にとっては多彩な選択肢が与えられる。そのため、卒業生の職種も医師や弁護士、薬剤師、建築士から芸能界まで何でも揃い、そのネットワークは強固だ。また、大学の授業を、高校在学時に受けて単位修得もできる都心という立地を活かした制度もある。修得した単位は、日本大学での卒業単位としても認定されるが、何よりキャンパスの雰囲気を知り、学びたい学問との相性を確認できることがメリットだ。
共学では女子に押され気味になるグローバル教育も、男子だけの環境ではチャンスが増える。2020年度はコロナ禍で中断せざるを得ないが、アメリカへの修学旅行(2021年度実施予定/高校)、カナダへの語学研修ホームスティ、ケンブリッジ大学で17日間行われる語学研修「ケンブリッジ研修」(選抜)がある。ケンブリッジ研修や、校内英語スピーチコンテストの代表者は全国の日大付属校との交流もあり、ふだんと違う環境での切磋琢磨が期待できるだろう。
一方で、日常の学習についても、中学入学時にPDCA(計画・実行・評価・改善)を取り入れた教育システムを展開させている。授業と部活動を両立させ、中学生からタイムマネジメントをしっかり行えるようにするためだ。生徒一人ひとりに持たせたタブレットで自己管理のトレーニングをすると同時に、学習記録をつけさせる。こうした指導の成果として、生徒のポテンシャルが引き出され、思いがけない進路選択につながることも少なくない。
文系から理系に転向し歯科医師になったり、いつも補習が必要だった生徒が難関大学に進み、今では司法修習生になっていたり、英語で赤点を取っていた生徒が海外で日本語教師になっていたりするケースもあるという。「中学入試がゴールではなく、人生の終わりがゴール」という田中先生。いつ力を発揮するかは人それぞれのタイミングがあるが、そのための種まきが同校でしっかり行われている証ではないだろうか。
今年の教育テーマは「失敗させよう」だという田中先生。「サイバー空間と違って、リアルの失敗はリセットできません。しかし、失敗をカバーし、立ち直る方法を学べるのが学校です。自分で考えても無理な時は、友達や先生を頼ればいい。本校では失敗も大らかに受け入れます。そのための環境を整え、次なる成長を促していきます」