1人1台のタブレットで、休校中も学びを止めず
突然の休校要請に緊急事態宣言。年度をまたいで続いた異例の状況に、八雲学園中学校高等学校の対応はスピーディーかつ柔軟だった。「早くから取り組んできたICT化が大いに役立ちました」と校長の近藤彰郎先生は振り返る。生徒は1人1台のタブレットを持ち、全教科で活用。多様化する大学入試や新学習指導要領への対応も考え、主要5教科には問題解決型学習を導入して双方向のデータ通信なども行ってきた。「今回のコロナ禍でも、教員の一致団結した頑張りに加えて、生徒がICT機器を使いこなしていたのが大きかった。中2以上はスムーズにZoomを使った双方向型授業がスタートできました」
入学式が延期になり、一度も登校できないままだった中1生に対しては、タブレットを自宅に送って使い方を動画で配信して説明。保護者の協力を得て、こちらもスムーズにZoomでの授業を始めることができた。「ただ、オンラインの授業が1日6時間にもなれば、生徒たちの負担が大きい。画面を見続ける時間が長くなり過ぎないように配慮しました」と細心の注意を払いながら進めてきたと言う。
それでも、影響を最小限にとどめることができた。ICTのフル活用で休校期間中も日々の学びを止めなかったことが大きい。「生徒に直接会えなかったのは残念ですが、オンラインのホームルームでは私も全クラスに顔を出して校長としてのメッセージを伝えました。授業はもちろん、とにかくできることは全部やろうという一心でした」
安心を第一に、感染防止対策を徹底
6月に学校が再開された後も、「できることは全部やる」という姿勢は変わらない。感染防止のため、生徒全員の机に透明のアクリル板を設置。飛沫の拡散を防ぎ、安心して授業が受けられるようにしている。専門業者が製作したアクリル板は持ち運びができるため、授業以外のさまざまな場面で使うことが可能だ。
さらに、全校生徒に消毒液を配布。生徒たちはこれを各自携帯し、こまめに除菌している。併せてマスクケースも全員に配った。「生徒の健康と安全を最優先に考え、学校としてできることはすべてやっています」と近藤先生。先生方の思いに応え、生徒も「自分の身は自分で守る」と高い意識を持って行動しているそうだ。
共学化3年目で男子が半数を占める
新年度のスタートこそ思わぬ形になったが、共学化3年目となった今年は、新中1生に占める男子の割合がほぼ半数になった。「男子の入学が年々増えているのはうれしい。中学3学年全てに男女がそろい、もはや男子がいるのが当たり前になりました」。男子1期生は中3になり、入学時から比べると見違えるほど成長したと言う。
来春、彼らが高校生になるのに合わせて、高校も共学化。高校からも男子生徒が入ってくることから、男子の存在感はさらに増すことになるだろう。「本校が女子校として積み上げてきたものの良さを男子もしっかり受け止めてくれている。人に優しく、弱い者を助けるナイト(騎士)の精神を持つ男子を育てたいと考えています」
創立以来、最大の改革ともいえる共学化に際しては、中高6年間のカリキュラムを一新。2年間ずつの3ステージ制を導入した。中1・2で基礎的な学力を習得、中3・高1で海外研修や留学プログラムを体験、高2・3で受験指導体制を確立するシステムだ。男女が共に高め合いながら学力を向上させ、希望の進路の実現を目指す。「中学の間は女子のほうが大人びているので、男子には物事を大胆に考えてもらいたいし、自分の人生観を大きくとらえてほしい。そして、コロナ禍で大変な今こそ、男女ともに力強さを持ってほしいです」。目の前の課題を乗り越えようと思って初めて、自分の夢を達成するための努力ができると近藤先生は言う。
一方で、今は男女とも手をかけて引っぱり上げる教育でなければうまくいかないとも実感している。クラス担任とは別の教員がチューター(学習アドバイザー)となって、生徒一人ひとりの学習を支援しているのもそのため。チューターは学習面だけにとどまらず、日常生活の悩み相談や進路相談まできめ細やかに対応している。こうした面倒見の良さもまた同校の大きな魅力だ。
グローバルな資質を育むプログラムが充実
創立時からの柱であるグローバル教育では、新たな取り組みが順調に進む。たとえば英語の授業では、「実際に使われている英語」を重視。昨年度からは英語教育の専門家をアメリカから招き、英語科教員を指導することで生徒の英語コミュニケーション力を高めている。
充実した海外研修の評価も高い。中3生は全員でアメリカ・カリフォルニア州サンタバーバラの研修施設「八雲レジデンス」で2週間の研修を行う。現高1生は今年2月に滑り込みで実施することができた。
高1では3か月間のアメリカ留学に事前学習と事後学習を加えた「9か月プログラム」を選抜制で実施してきた。留学中は中3での海外研修と同様にカリフォルニア大学サンタバーバラ校で授業を受け、現地での交流を深めている。参加した生徒は外国語能力の参照標準「CEFR」で全米トップ校が求めるB2レベルの力をつけるなど、成果を挙げてきた。今年も現地に派遣する生徒の選抜は終わっていたが、やむを得ず中止が決まった。「選ばれた生徒たちは一生懸命に準備をしてきました。何とかしてあげたいと、ネイティブ教員が中心になって英語を学ぶ代替プログラムを検討しているところです」
海外研修以外の学校行事も大切な成長の機会ととらえ、遠足や合唱コンクール、体育祭、文化祭など、年間を通して大小さまざまな行事を開催している。今年度は実施が難しいものもあるが、簡単に中止を決めることはしていない。「やめるのは簡単。そうではなく、生徒たちにはまずどうすればできるかを考えてほしいと伝えていますし、私たちも一緒に考えたいと思っています」と前向きだ。
現在のところ、来年の中学入試に変更の予定はない。近藤先生はコロナ禍で頑張っている受験生に向けて、「家族や先生をはじめ、応援してくれる人はたくさんいるので、大変なことがあっても自分だけで悩まないでください。また、いろいろなチャレンジをしてください」とのメッセージを寄せてくれた。