WILLナビDUALアーカイブ 私立中高一貫校

中高大が一緒になって
社会と連携した学びを推進

実践女子学園中学校高等学校

2021春、実践女子学園中学校高等学校に新たな校長が就任した。実践女子大学・短期大学部の元学長で、中高と大学との一層の連携強化が期待されている。すでに一部の生徒や教員レベルでの連携は始まっており、渋谷という街をフィールドにした社会連携の試みも軌道に乗りかけている。今後は、カリキュラムレベルでの高大連携・社会連携に向けた動きが活発化しそうだ。

湯浅 茂雄校長

「実践10年教育」を掲げ、学園全体で社会連携を推進

同校は実践女子大学・短期大学部の渋谷キャンパスに隣接しており、これまでも中高の教育に大学の教員が関わってきた例はあるが、学園全体の大きなムーブメントにはなっていなかった。そこに登場したのが、同大学の教育研究の現場を知り尽くしている元学長の湯浅茂雄校長だ。

「大学には、新たな知見を生み出す研究所、貴重な文化財産など、豊かな教育資源があり、中高の教育や人格形成に効果的に役立てることができます。そこで本学園では、新たに『実践女子10年教育』を掲げ、施設の共有も含め、中高のキャリア教育にも資する形での一貫教育を展開しようとしています」と湯浅校長は語る。

単に中高の生徒が大学の施設や学びにアクセスするだけという一方的な連携ではない。世界は今、解決の難しい複雑な課題に直面しており、すべての教育機関に、課題解決に取り組む成長段階に応じた能力の育成が求められている。それには社会と連携した教育が必要で、同校がめざす一貫教育にはそうした視点が盛り込まれている。

「社会連携に中高や大学の別はありません。たとえば、SDGsに関連するテーマに中高生と大学生が一緒になって取り組めば、中高生が学ぶだけでなく、大学生も中高生の発言や行動に刺激を受ける可能性もあります。重要なことは、単発ではなく、継続的な取り組みを行っていくことです」(湯浅校長)

大学教員からはこうした連携教育への協力を申し出る声が届いており、すでに連携が始まったケースもある。湯浅校長は「今や、企業や大学にとって社会連携は大きな責務です。社会連携を進めるなかで高大連携ができていけば素晴らしいと思っています」と抱負を語る。

社会問題を考える教育プログラム「未来デザイン」

同校では、2020年度から社会連携プログラムが動き出している。中1〜高1の総合的な探究の時間を「未来デザイン」という授業科目とし、ESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育) の視点から、「社会」「環境」「国際・異文化理解」の3つのテーマに沿って授業を行っている。

「未来デザイン」を統括する渡辺大輔教諭は、「目的は生徒の知的好奇心を引き出すこと。体験を通した学びのなかで、『本気』『本物』『本場』『本質』の4つの“本”を通して、生徒が感じたり、考えたりできるようにしています」と語る。

授業は教科横断型で、17名の教員が担当。社会問題にアクセスし、大学とも連携していく。渡辺教諭は学園の「社会連携推進チーム」の一員でもあり、これまでの探究活動の中でも大学の教員と協同して社会連携教育を行ってきた。その経験をもとに、より発展的な授業への展開を考えている。

「本校の立地する渋谷は、世界でもよく知られている魅力あふれる街です。渋谷が持つ“未来に向けての可能性”を活かした授業を、町内会・行政・企業など地域の方々と連携しながら展開していきたいと考えています。また、学園と渋谷区で包括連携協定を締結しています。今後は、『未来デザイン』でも、渋谷との関わりをできるだけ数多く設定していく予定です」(渡辺教諭)

「未来デザイン」で意識を高めた生徒は、高2以降は自らの問題意識にしたがって主体的に行動することが期待されている。そのため、カリキュラムで縛るのではなく、モチベーションの高い生徒が自主的に活動を展開することが推奨されている。

ESD推進担当の渡辺大輔教諭

渋谷を発信する「PLAY SHIBUYAプロジェクト」が始動

その好例といえるのが、昨年誕生した「PLAY SHIBUYAプロジェクト」だ。女子高校生の視点で捉えた渋谷の様々な魅力を発信していこうとする活動で、渋谷という街を「楽しむ」「起動する」といった意味を込めて名付けた。メンバーは固定せず、活動内容に応じて有志が参加する形をとる。

発起人は佐藤日名子さん(高3)。同校では下校時の寄り道は禁止だが、「寄り道して美味しいものが食べたい」とポロッと出た本音が、渋谷の美味しいものを発信するプロジェクトとして結実。東京五輪で訪日する外国人に渋谷の美味しい店を紹介する計画だったが、五輪延期を受けて、コロナ禍で大変なお店を応援する企画に変えて進めた。

メンバーは佐藤さんが所属する交渉班や、発信班、取材班に分かれて活動を展開。発信班として参加した榮山祐美子さん(高3)は、インスタグラムやノートといったSNSの共同アカウントを取得し、取材班がまとめた写真や記事を加工して投稿。「いかにいろいろな人に見てもらえるかを考えて、デザインしました」と苦労を語る。

この活動の延長として、実践女子大学の教員がゼミ生と共に運営している通年のラジオ番組「渋谷のラジオ」に、メンバー全員がゲストとして出演し、大学生と一緒に番組づくりにも参加した。コロナ禍でラジオ局に行けなかったため、それぞれ自宅からオンラインで参加した。

「大学生が現実の社会の中で活動している姿を見てうらやましくなり、早く大学生になりたいと思いました」(榮山さん)、「話を上手くリードしてくれる大学生を見て、私もそんな大学生になりたいと思いました」(佐藤さん)など、大学生との交流はメンバーに大きな刺激だったようだ。

左から佐藤日名子さん、榮山祐美子さん、藤榮晶さん

教室の枠を超え、他校とのコラボも含めた社会連携へ

プロジェクトメンバーの多くは、品川女子学院中等部・高等部との合同企画「アイデアソン」にも参加している。渋谷のフィールドワークに取り組んだ実践女子と、未来のオフィスのあり方を提案する品川女子と初めてコラボし、渋谷における未来のワークスタイルについて考えた。

両校の生徒数人で混合チームをつくり、アイデアを持ち寄って1つの形にまとめ、企業人の前でプレゼンを行った。他校との交流は初めてという佐藤さんは「初対面の人と何時間も話し合いながら企画をまとめていく経験を通じて、人との距離の縮め方などを学べました。今でもそのときの相手とは連絡を取り合っています」と語る。

アイデアソンでのプレゼンの様子

プロジェクトの中心メンバーは、テレビ朝日のテレビ番組「バーチャル修学旅行」にも参加した。広島・長崎・沖縄を結び、サーロー節子さんなど体験者から被爆体験や戦争体験を聞くという内容だ。ところが、それが思わぬ方向へと発展していく。

番組に参加した同校の生徒と、南山高等学校女子部、広島女学院高等学校の生徒が自主的に呼びかけ合って、リモートで平和学習に関する意見交換会を開催したのだ。藤榮晶さん(高3)は「地域によって平和学習に大きな差があることに気づきました。広島女学院の平和学習のプレゼンは素晴らしく、本校の生徒にも紹介したいと思いました」と語る。

同じく「同世代の人が原爆や被爆についてこれだけの思いを持っていることに感銘を受け、行動することが大切だと感じました」と話す榮山さんたちと一緒に、広島女学院から資料を借りて、平和学習のプリントを作成。長崎への修学旅行が中止になった学年全員に配布するなどの活動につなげた。

同校では、ほかにも、生徒が渋谷の起業家と交流する企画や、大学生と連携した教育企画が動いている。「PLAY SHIBUYAプロジェクト」も下の学年が引き継いでいく。教室を飛び出し、大学や他校の生徒、社会とつながる経験をした生徒たちの視野は、これまで以上に広がっていくはずだ。