6年後を見据え、自ら考え、気づく教育を推進
「本校は高校からスタートし、以来ずっと自主自学を教育方針に掲げてきました。20年前に中学校を開校するにあたり、あらためて打ち立てた教育理念が『自ら考え、判断することのできる若者を育てる』です」と話すのは、この春、就任したばかりの尾花信行校長だ。私立中高一貫校の教育が、6年後の出口として大学受験をめざすのは、ほとんどの保護者が求める姿であろう。しかし、同校はやみくもに生徒を出口に向かって走らせることはしないという。
「本校の生徒はほぼ100%が進学を希望しますし、そのための知識は大事です。しかし、そこに到達するまでに、しっかりと自分で考えたり、気づいたりするなかから、自らやりたいことを見つけることで、モチベーションが得られます。本校では、そのためのきっかけとなる知的体験をたくさん用意しています」
そのために同校が採用しているのが、「帰納法的手法」による教育だ。「AとBが混ざるとCになる」と、原理と法則から教える演繹的手法ではなく、遠回りになっても「AとBが混ざるとどうなるのか?」を考えさせ、うまく答えが出せなくても検証するという体験を通じて、探究心や好奇心を育てるという。
「理科では実験を数多く行っており、中学の1年間で30回くらいです。さらに実験結果についてレポートを書くことで発見もあり、思考力や考察力が身につきます」
施設も充実しており、各教科の設備が揃った特別教室棟の理科実験室の多さは自慢だ。
「実験で理科に興味をもち、サイエンス部に入って成果を出す生徒もいます。ここ2年連続で全国大会に出場するなど実績をあげています」
「学校の目の前の田んぼ」で稲を育て、自然を観察
また学年が上がるごとに行う、段階的な体験学習にも注目したい。
中1では、稲作体験を行う。
「学校の目の前にある田んぼで行い、稲の育つ様子を肌で感じることができる体験です。遠方で田植えを行い、秋に送られてきた米を食べるという話はよく聞きますが、本校の場合は田植えから稲刈りまで行い、常時、田んぼの様子を観察できます。台風がきたらどうなるか?など実際に目の当たりにしながら、稲の成長を見守り、自分たちで鎌をもって収穫し、試食します」(尾花校長)
稲作文化や道具のもつ社会的背景、食育など、理科や社会科、家庭科の要素が盛り込まれているが、環境問題まで関心をもつ生徒もいるそうだ。
中2では、卒業生や保護者による職業に関する講演会や、過去には職業体験などのキャリア教育も実施していた酒井直樹副教頭は「中学生くらいの年齢ですと、身のまわりの職業しか知らないことが多いのですが、さまざまな職業に就いている人の話を聞くことで、世界が広がります」と話す。
さらに中3になると、越谷市にある社会福祉協議会の協力で、講和や福祉体験も行う。高齢者の動きづらさを疑似体験できる装具をつけたり、車椅子体験や赤ちゃんの世話の仕方を教わったりする。こうした体験は、支え合う社会の大切さへの気づきだけでなく、大学という専門的な学びの場への関心も育てている。夏休みには、各自ボランティアにも参加し、実践的な学びも得る。
表現力を鍛える「文章表現」から「卒業論文」まで
ことあるごとにレポート作成が課されるのも特徴的だ。先の職業体験や、歴史の授業などでレポートを書くほか、夏休みの課題で「自由にノートを埋めてくる」というものもある。練習問題を解いてきたり、日記をつけたり、中には野球チームのスコアブックをつけてくる生徒もいる。「内容は何でもよく、すべて受け入れます。その結果、生徒が何かを見つけ、何かが起こるきっかけになればよいと考えているからです」と尾花校長はいう。レポート作成の土台となっているのは「調べ方ガイダンス」だ。体験学習との同様に学年で段階的に力をつけていく。中1では、図書館の活用方法や参考文献リストの付け方など調べ活動の手法を学ぶ。中2の国語科では「文章表現」の授業を行う。1クラスを2つに分けた少人数で実際にレポートを書きながら、「コピペ」ではなく、要約や引用の方法などを学ぶ。
それらの集大成が、中3での卒業論文だ。同校では、中学3年間を知的ベース養成期としているが、まさにその総まとめとなり、ここで培った力は、大学進学時だけでなく、高3で選択できる「獨協コース」で、16000字以上の卒業論文を執筆するときにも活かされる。これは、獨協大学との高大連携のひとつで、論文指導は大学の教授陣が行う。「学科をあらかじめ決めて、その学科の学びに必要な課題図書が与えられます。高校生には難しい内容で、最初は読めなくても、だんだん読みこなせるようになっていきます。卒業論文の指導は、教授のほか、担任と論文担当教員がつき、1人の生徒に対して多くの大人があたります。テーマ決めの時点でも、すでに先行論文がたくさんあるとダメ出しが入るなど、要求度は大学生並みです」と尾花校長は語る。
医師志望者に朗報! 獨協医科大学への推薦枠が大幅に増加
獨協大学および獨協医科大学への推薦制度にもふれたい。獨協大学の推薦制度は3通り。獨協コースでの高大連携プログラムを履修することで得られる推薦資格、単願推薦(第一志望者のみ)、併願推薦(他大学の一般入試を受けられる)といった多彩な推薦制度で進学が可能だ。さらに大きなトピックとして、2022年度入試から獨協医科大学への推薦枠が増える。これまでは指定校推薦枠で多くても3名程度の推薦だったが、併設校枠が新設され、併設校2校併せて10名まで受け入れられる。「獨協学園として、学園の生徒を医師へとつなげていこうという考えで、中学時から医学部をめざす生徒を積極的に支援していきたいと思っています」と尾花校長は話す。高大連携の一環で、これまでも医師による講義や、看護師体験など、医療に興味のある生徒のやる気を育む取り組みが行われてきたが、尾花校長は「勉強だけでなく、豊かな中高生活を送りながら、医学部に進学する道があることを知ってもらいたい」と力強く語る。
医師に必要な人間性やコミュニケーション能力は誰しも必要な能力だ。それらを体験的な教育でゆっくり6年間かけて育成してきた実績が同校にはある。最後に尾花校長は「土臭いけれど、大地にしっかり根をはって、枝葉を大きく伸ばし、自ら成長できる人になってほしい」と生徒への思いを熱く語ってくれた。